神は存在しない【CS集】

過去 ページ28

○過去

片桐珠沙は笑うことしか出来ない。
否、許されなかった、という方が正しいだろう。
彼女の父親は政府の関係者、それも相当上の方に位置している役職の人間だった。
そのため、昔から他人の印象を気にして笑顔でいることを強要され続けた。
すると、彼女は笑顔以外の顔が出来なくなってしまったのだ。ほかの全ての表情を、失ってしまった。

彼女には妹がいた。妹も自分と同様、笑顔を強要されていた。きっと、自分の気持ちをわかってくれると思っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。
妹は、こんな扱いを受けていても感情や表情が豊かだった。だから、彼女の気持ちを理解できなかった。
妹は彼女を罵った。何故こんな時に笑うのだ、どうして泣けないのだ、と。
それでも彼女は、妹を信じていた。
きっといつか分かってくれる、だって私はこんなにも、あなたを愛しているのに。という考えが、ずっと抜けなかった。

しかし…妹は、こんな環境に耐えかねたのか、自ら水の中に飛び込み、その命を散らした。
…彼女の、目の前で。
妹の顔は、悲しそうな、それでいて今にも怒りだしそうな顔をしていた。

そんな顔をさせて逝かせてしまった、彼女はそれに強く絶望をした。
そして、こんな死に方をさせた父親を強く憎んだ。彼女は家を飛び出し、政府に反するような形で99.9#を立ち上げた。

しかし、こんな時でも怒りもできず、泣けもしない。そんな自分が、1番憎かった。どれだけ自身を傷つけようと、その気持ちが取れることは無かった。


・


「ち、がいますわよね...？だって私は、梨菜のことを愛していて。だか、ら...梨菜も、私を愛しているはずなのです。この事実は、覆せないものの、はずなんです。だから、だからきっと、これはきっと梨菜の強がりにかまっていますわ。そうでしょう...？」

「あ、あ...あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁｌ！！！！に、くい、憎い憎い憎い！！！！あの男が憎い！！！どうして...あの男はこうも、自らの娘を道具のように扱えるのですか！！！あんなにも、悲しい顔で逝かせて...憎い。憎くて仕方ありませんわ！！！」

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