La Pomme Cristal (前編)

3、優先されるべき物 side-2 ページ4

　
　
　
ずっと年上の歌手の人で、コウトウガン？とかいうヤツになって喉を切って、切る前みたいには声を出せなくなった人がいる。



彼は生き長らえたけど、歌手生命は絶たれた。



反対に、命より声を取った人達だって……。



歌い手には、声は命と同じかそれ以上なのかも。



オジサン達はそういう選択をしたとしても、ガヤはまだ二十代だよ。



F「喉頭癌とは言っても元々は甲状腺癌な。

自覚症状が……もっとはっきりしてたら……」



2「死なないよね？

ねえ、死なないよね？！」



命より声を優先して良い年齢じゃない。



F「死なないように……しなきゃって……思う。」



詰め寄る俺の頭を撫でて少しだけ微笑んだ。



俺がパニクって子供じみた質問ばかりするから、逆にガヤは笑顔になった。



でも、その笑顔はすぐに消えた。



ガヤは、先生が生徒に教えるように淡々と語る。



F「喉頭癌はね、確かに長年の飲酒喫煙が原因でオジサンがなる事が殆どだよ。

でも甲状腺癌は若い人でもなる。

それが知らないうちに、周りに広がる事もあるんだ。

むしろオジサンだったらね、もっと定期的に身体の隅々まで検査してた。

だって……声が無かったら、俺は……」



そう言って、ガヤは胸で揺れてるリンゴの形の真っ赤なチャームを握りしめ、窓の外へ、顔を向けた。



今日の空は良く晴れていて、春の日差しに溢れてる。



F「もう病院に戻るよ。

病院に頼み込んで、一瞬みんなの顔を見に来ただけだから。」



ガヤに巣食った病魔は、ガヤの大切な場所に悪さをしていた。



そこをゴッソリ……ガヤの声をゴッソリ、ガヤと俺達から奪っていった。

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