「Hi ナマステ Hello、ようこそラトナラジュ東京へ！」(前編)

3、ピジョン・ブラッド　side-K ページ5

　
　
　
マハラジャの俺は、通称「赤ジャケ」を羽織っている。



今夜は、深紅のベルベットに金糸の総刺繍のロングジャケットだ。



さすがにターバンを巻いたりはしていないが、マハラジャを演じるのに、ダークスーツじゃ全くコンセプトに寄っていない。



背中には、大きく開かれた孔雀の上尾筒の図柄を背負っている。



センターベントが入ったロングジャケットは、尾羽のように綺麗に揺れる。



孔雀をあしらっていながら、ジャケットの色は深紅……ピジョン・ブラッド(鳩の血)なのは、店名が「ラトナラジュ」だからだ。



ラトナラジュとはインドにおける宝石(ラトナ)の王様(ラジュ/ラジャ)、ルビーを指す。



中でも曇りの無いピジョン・ブラッド色が最高グレードとされている。



だから、マハラジャの呼称と共に、この店のコンセプトカラーの深紅は、俺にしか許されていない。
　
　
　
　








俺はここのナンバーワンにはなったが、俺が昇り詰めれば頂点にいたマハラジャはラジャへと降りるわけで……



俺が初めて赤ジャケを纏った日、チクリと嫌味を言われた。



「七五三かよ。」



K「は？」



「ガキのコスプレをウリにしてる写真スタジオの貸衣装かよって。」



K「はい？」



ソイツは180オーバーの高身長、スラリとしたモデルのようなクール系イケメンだった。



「チビが赤ジャケ着てドヤってんじゃねえよ。」



マハラジャがチビで何が悪い。



マハラジャである父が早死にしたら、子供でも後継者として即位をしマハラジャとなる。



俺は言うほどのドチビでもない。



165以上はある。



チビは相対的なモンだろ。



それに、俺はカワイイカワイイで、のし上がってきたんだよっ



それをウリにして客を堕としてきたわけよ。



色恋営業も一切ナシだぜ？



K「お前は、身長と顔しかウリが無えの？

残念だな。」



「ケッ」



悔しかったんだろうなあ。



七五三を捨て台詞に、前マハラジャは辞めていった。

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