5話 久遠の館と気弱いお人 ページ6
それは、あまりの寒さに嫌気がさして、ポンチョを買いに行こうと、部屋から出たときに起こった。確かに有り得たことだったのに、私はあまり考えていないことであった。
「おお、零斗様。これはこれは、麗しゅう」
「ああ、――――様。ほ、本日はどうされましたかな?」
客人のお通りだと思い、咄嗟に礼をしようとした刹那、またもや、あの声が過る。――――よいことでございまするな、妹様は――――高圧的で緊張してしまう声に、何時も何時も、気持ちの悪い猫なで声で返していた人がいた。私は本当にあの人の声が嫌いで、よくクローゼットに隠れたものだ。そうすれば、あの人には見つからなかった。あの、ベタベタした手は、クローゼットを探らないから。
――――あ。
それに気付いた刹那、突然足が震え始める。少し遠慮しながらも、零斗様に話しかけるその男を、柱の影でそっと見た。
猫なで声に、妙に細くて、年寄りでもないのに曲がった体。奇妙なほどに丸い目。――――幼いころのあの人の記憶、木下雄志の姿と完全に合致している。
木下は、お父様の大人になってからの執事で、よくできた妹と、浮気者の娘の私をよく比べては、嫌らしい目と声で笑って。私を従属者に堕としたのもあの人。私を歓楽街に売り飛ばそうとしたのも、きっとあの人。
怖くなって、足が震える。目の前を手で覆って自分を抱きしめる。ひたりとやってくる不安は、どんどんその体を肥大化させて言った。
――――私に、その日のそれ以降の記憶はない。
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ましら(プロフ) - fruitさん» 返信遅れてごめんね!そう言ってくれて凄い嬉しい!読みにくいし作品はバンバン消すわの私の作品を追いかけてくれるなんて、凄い嬉しいよ。fruitちゃんの優しいところ凄い好き。コメントありがとう! (2017年9月16日 21時) (レス) id: 512c5a6245 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - おおー!またもや面白そうな作品で・・・!この作品も追いかけさせていただきます(^。^)更新頑張ってね!! (2017年7月26日 21時) (レス) id: e09a409b3e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましら | 作成日時:2017年1月30日 16時