中〜夢主ちゃん、海に行く〜6 ページ49
頷こうとしたその時、隣いた長義が動いた。
彼は鋭い目で薬研を私から遠ざけた。
『待て』
『…へ？』
『…俺が同行する。薬研藤四郎、悪いがこの話はなかったことにしてくれないかな』
＿そして今に至る。
まさか本当に長義が同行してくれるとは思わなかったが、なぜあそこまで嫌がった彼があの時あんな発言をしたのか分からずじまいだ。
私はちょっと長義と顔を合わせずらい。
今海に来て興奮して馬鹿になってるけど、そのドキドキがなくなった時…変に冴える私がいて、自分は彼の迷惑にならないようにしなきゃいけないそう思うと体が固くなる。
それじゃあ、元も子もない。楽しまなければ来てくれた長義に悪い。
でも、ただ楽しむのもダメ
細かいことが難しい私はため息がでるのだ。
「…早く着替えてこい。その格好は暑いだろう」
肩を強く押され、脱衣場の方へ促された。
「え、でも海がぁ…」
「お前がそんな暑苦しい格好をしている方が不味い。服はそれしかないんだろう？
安心しろ。悪天候になろうが、お前が不細工になろうが海はある」
「確かにこの服しかな…って！
最後の不細工は何！？」
「…」
「おーい？！ちょっ、無視しないで！」
確かにこの巫女服は全く駄目だ。生地が厚い上に通気性もそこまで良くない。明日も仕事があるのに、汚せば大変なことになる。
だが、最後の不細工はなんだ。
素顔のイケメンになってもその毒舌が和らぐ訳もなく、ましてや私もイケメンだからといって許すわけない。
私は売られた喧嘩を買いにいった
「そこまで附子じゃないでしょ…！平均値はあるでしょ！？そうだよね！？」
「いいから、さっさと行ってこい。文句はその後で聞いてやる。
…お前が倒れたあとじゃ洒落にならないだろう」
「うぅ…分かった…分かりました…っ！」
とぼとぼ水着姿へ着替えに向かった。
「＿さて、…そんなところに隠れてないで出てきたらどうかな？」
地獄耳と言われるだけあって、集中して耳を傾ければ色んな声、罵声や悲鳴にも似た声が聞こえる。
本当は海のさざ波だけを聞きたかったのだが、雑音と共にそんな長義の声が聞こえてきた。
(知り合いか…誰か？…いやでも前に知り合いなんて居ないって言ってたし…
…もしかして薬研とか？)
「…まさかね。」
薬研に限って隠れるとかそんな真似はしないだろう。それに…隠れたとして何にもいいことはないのだから。
外の声を聞かなかったことにした。
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作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年2月1日 1時
