拾参 ページ29
隅に追いやられてた加州は怒って反撃の狼煙を上げた。
「なんで、がっちり手繋いでんの！？」
「別に駄目って言われてないだろ。」
「はあ？安定のくせに生意気なんだけど！」
ヒートアップしつつあるこの喧嘩を宥めようと、私は声に出す。
「手を繋ぎたいならいっその事二人が手を繋いだら」「「誰がこんな奴と！！」」
「…は、はい。」
……手を繋ぐなんて誰とでもいいんじゃないのかと数秒前まで思っていたのだが…。
そうか、二人はお互いじゃない誰かと手を繋ぎたかったのか……。
どうしよう。
これは止めようがない。
「そもそも、そこは俺が取ったんだけど！！」
「前は譲ったんだからいいだろ！」
「譲ったって、ほんの少しだけだったでしょ！」
いつの間にか、二人は割り込んだあの場所の奪い合いが始まっていた。
「あの…座りたいなら私の席譲るよ？だから喧嘩は」「「君が譲ったら駄目っ！！」」
「あ、はい。」
二人が争い始めたその視界の端でじっとみる人が1人そこに佇んでいる。
彼は何とか騒動に巻き込まれないようにいい所に隠れている。
「…長義。」
「俺を見るな、お前が原因だろう。」
私がそそくさと彼の傍によると、来るなと言いたげに彼は数歩下がる。
「そこをなんとかお願いします！」
「断る。」
「逃げないでっ！お願い！」
せめてこの空気を一人で味わいたくない一心で長義にしがみついた。
「あ！そんな男なんかに抱きつかないで俺に＿！」
「清光！抜け駆けは…！」
二人がまた喧嘩を始めると、長義は私の肩を掴み剥がそうとした。
「…悪いが離れてくれないかな。俺まで被害がくる。」
「冷たいこと言わないでぇぇえ！助けてよ、後生だから！ね？」
こういう事態に陥ることが私にとって最大の苦手分野であり、空気を読めない人間にとって最大の難所である。
未だになんで彼らが喧嘩するのかですらよく理解出来てないのに、長義がいなくなったら物凄く大変だ。
「…この事態を解決するだけのために一生を捧げるのか？」
捧げるという言葉が地味に言葉の重みが増した。
「うっ」
「…はあ、せめて嘘でもそうだと言ったらどうかな？」
「そのぐらいの事態なのよ！あ、そうだ。
じゃあ、助けてくれたらその対価に貴方のお願いなんでも聞く、なんてどう？これならお互いにフェアでしょ？」
「ほう…。なんでも？」
彼がぴくりと止まり、引き剥がすのをやめた。
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作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年2月1日 1時
