短その二 ページ17
本物と偽物 (山姥切長義)
「…あそこの部隊、結構やるわね。
隊長は…山姥切か。」
いつものように見て淡々と独り言を言っていると、いきなり視界にフード男が現れた。
…明らかにしか視界の邪魔をしてきて続きを見たいのに見ることが出来ない。
「…。」
「ど、どうしたの。」
顔を上げて見えたフードの中にあるその目は、…なんか怒っていた。
山姥切国広に対し常に睨んでいるのは知っているが、耳に聞こえるだけでも嫌なのだろうか。
いくらなんでも毛嫌いし過ぎではないだろう。
「彼のことを山姥切と呼ばないでほしいな。」
どうやら、私が山姥切国広を山姥切と呼んだことが原因らしい。
「どうして？」
「本物の山姥切じゃないからだよ。
…彼は所詮本歌の山姥切を写した偽物だからね。」
「……偽物？」
「そうさ。知らなかったのかな？」
声は笑っているが、その口元は全然笑っていなかった。
「刀に興味はないから詳しくは知らないけど彼は初期刀の内の一人だもの…。えっと、確か本物を写した刀…よね？
……彼は偽物じゃないと思うけど。」
私がそう言うとピクリと少したじろいだ。
もう話すことはない、とそう思って彼をかわして試合を観ようとすれば、また邪魔をされる。
引く気はないようだ。
「…何を言っているのかな？
偽物は偽物だ。本物と比べるまでもないよ。
評価されるべきなのも、注目されるべきなのも本歌の刀、そうに決まっている。
…お前が…あんな奴に関心を向ける必要はないんだよ。」
………何が言いたいんだ、この人。
「関心も何も戦い方に興味があるだけよ。」
「それはつまり…あの偽物君の戦いに興味がある、ということだろう？」
「……。
貴方が何をしたいのかわからないわ。」
「俺はただ"偽物ではなく本歌の刀に目を向けたらどうかな"と言っているだけだよ。」
言葉は優しいはずなのに声は鋭い。
やけに本物と偽物にこだわっている様子だ。
こういうのは軽く返した方がいいな。
深く追求すれば、論争でも起きそうだ。
「…結局、山姥切国広を山姥切じゃなく別の呼び方で呼べってことよね？
分かったから、だから早くそこを退いてくれない？や……国広の戦いが見たいの。」
とっさに山姥切と呼びそうになった口を噤んで、国広と口に出した。
しかし、目の前の男は不愉快なままらしい。
「……。」
「…何よ。」
「…その呼び方もやめろ。」
……じゃあ彼をなんと呼べと言うのだろうか。
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作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年2月1日 1時
