短 ページ13
恋文
彼女は首を傾げて綺麗な黒髪を揺らした。
「…今日、なんでそんなに怒ってるの？」
いつもは軽く聞き逃すはずの言葉は今日だけやけに耳に残って離れない。
「さあな。」
敢えて気付かないふりをした。
「それより返事をどうするつもりなんだ。生半可な受け答えは相手を結果的に傷つけることになるぞ。」
「…分かってるわよ。でも綺麗な言葉が上手く頭に浮かんでこないの…なんて言えばいいのか…」
珍しく彼女が弱い面を見せた。その姿を見るのが嫌で頭に浮かぶきつい言葉を言ってしまう。
「お前がそんな調子でどうする。そいつはお前の素直な言葉が聞きたいはずだ。綺麗である必要は無い。
どんな言葉だろうとお前が言うことに意義があるんじゃないかな？」
「…そうよね。ありがとう！私ビシッと言って来る！」
彼女は自分の頬をパシッと叩き、いつもの調子に戻る。
いつの間にか頬を緩めてしまった顔を彼女にバレないようにフードで隠し、紛らわすように模擬戦に目を向けた。
「断っても恨まれない…よね？」
ポツリと隣で彼女は呟く。まるで前に体験したかのような重みのある言葉だった。
違和感を感じたが俺は気にせず返事をする。
「…問題が起きることを危惧しているのか？
その男は審神者なのだろう？もし恨んだとしてもまともな奴なら下手に問題を起こすような真似はしないはずだ。
…それに俺が守ってやらないことはない。」
「…。」
「…なんだ？」
俺が言ってのけると、ぽかんと口を開けて彼女はじっと見ている。
「そう言ってくれるとは思わなくて……えっと、ありがとう。」
考えてみれば彼女が驚くのは当たり前だろう。
守るなんて親しい間柄じゃないとしないだろうから。
「…貴方って絶対モテるよね。」
「いきなりどういう意味だ？」
「だって、雰囲気がどことなく男前って感じがするし、心配してくれるでしょう？なんだかんだ言って真剣に話にのってくれるからそうかなって思ったの。」
にこやかに彼女は言った。
本当に自分はどうしたのだろう。
ほんの数分前まで怒っていたというのに今は胸が和らいでいる。
……体のどこかに支障でも起きたのだろうか？
顕現される時におかしな問題点は一つも無かったはずだが…。
「それはとんだ勘違いだ。まともに話したことがあるのは目の前にいる人しかいないものでね。」
怒らせるつもりで嫌味を含めていったのだが、なぜか彼女は怒るのではなく驚いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 110人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年2月1日 1時
