おまけ短編開幕！その一 ページ12
恋文 (山姥切長義)
俺の隣で、演練場の試合を見ながらある女が呟いた。
「…どうしよ。」
濡烏のように綺麗な黒髪を腰下まで降ろし、お淑やかな顔立ちをしてその目は銀朱のように赤いが…顔を紙を垂らして今は見えない彼女。
いつもはその容姿にそぐわないほど明るく肝が座っている彼女だが、今日の彼女はどことなく元気がない。
彼女に渡されたぐれーぷじゅーすを手に持ちながらどうしたのかと聞けば、「こういうこと、他の人に言っていいのかわかんないのよ。」と返された。
「なら俺の前でため息を吐くな。」
「…そう言うわけにもいかないのよ…っ！
明日まで返事を考えないといけないのに！どうすればいいのかわからなくて…。」
壁に手をついて今度は項垂れ始めた。
いつも明るい彼女だからこそ自然にこちらも気分が暗くなってくる。
しばらくは無視していたが、彼女のため息と嗚咽に似た音が聞こえる度に心が乱されていく。
「いつまでもそんな調子だと俺が困る。さっさと悩みを吐け。」
俺が怒り気味に言えば彼女はうじうじしながらも渋々懐から白い文を取り出してぽつり一言言った。
「…告白された。」
「は？」
「手紙渡されて仕事終わったら読んでくれって言われて…読んだら恋文で…
しかも明日返事を待ってるとか書いてて…見なけりゃ良かった…。」
その文を嫌そうに彼女は見る。
「渡してきた奴は友人か何かか？」
「ううん。よく受付で顔を合わせる審神者さん…。」
「…気になっているのか？」
「いや、全く。」
その言葉にうるさかった鼓動は止む。
しかし、その安堵は直ぐに苛立ちへと変わった。
＿さっさと断ればいいだろう。
何も悩む必要もないというのに、なぜ悩んでいるのかさっぱりわからなかった。
どういうわけか今の彼女を見ていると苛立ちが増してくる。
「何が気がかりなんだ？興味はないならさっさと断ればいいだろう。
言うのが嫌なら俺が代行しても構わないぞ。」
「貴方って…大胆ね。」
暫く俺をじっと見て、何をいうのかと思えばそんなことを言ってきた。
現在の恋愛事情はそれなりに理解しているつもりだった。昔のように政略結婚もなく、自由に好いた異性同士と契りを交わすのだそうだ。
そんな時代だというのに、何故か彼女は好きでもない男の気持ちをなるべく傷つけないように懸命に考えていた。
……所詮人はいつまで経っても人だな、と思ってしまう。
「うじうじしてるどこかの女よりましだろう。」
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作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年2月1日 1時
