参拾漆 ページ35
…その作り笑顔に近い笑みからは‥どうやら私をそこまで信用しているわけではないことは読み取れた。
まあ、それが普通だろうけど、
彼がニコニコ笑うたびになぜか妙に傷つく自分がいた。
「…そうですね。問い詰められたら『絆を断ち切るために山に入って迷ったちょっと変な人に出くわして道案内を頼まれた。』とでも適当に言っておきますから」
「それで大丈夫ですよね？」と彼は言うが、…よくわからないところがあった。
「ホダシを断ち切る…ってなに？」
「…え、知らないんですか？…えぇ？」
その見下すような目に耐えきれずに私の口は勝手に見えを張ってしまった。
「し、知ってる、知ってるわよ！絆(きずな)って書いてホダシって読むんでしょ！そのぐらい知ってるわ！」
意味は知らないがとりあえず読めることを高らかに言うと、美青年は笑って酷なことを言う。
「へえ…、じゃあその意味は？」
「！！うぐぐ…っ」
「ははっ、わからないならわからないって素直に言ったらどうです？」
「くそぉ…私の長年培ってきた努力がぁ〜…」
［東の國］の情報はこれでも自力でかき集め続けたわけだが、…実のところ習慣やら言葉の意味とか、文法とかわからずじまいなのが多くて私は知っているようで知らない面が多い。
時代の移り変わりもわからないので、
例えば…目の前の彼の格好も最新の流行物なのか、それとも彼が好んで古い格好をしているのかもわからない。
…そもそも周辺の情報も足りてなかった。
できることなら彼から引き出したかったのだけど、訳ありらしいし、実際吐くようにちょっと仕向けているのだが、全く彼は身の上話をしてくれなかった。
美青年がどのぐらいの力量なのかはわからないが、…まあ、私よりも話上手で聞き上手。…頭がいいのはすぐにわかった。
尋問とか得意でない"怪力バカ"な私にはこのまま引き止めるほうがデメリットなのは明白だ。
馬鹿な奴をとっ捕まえて尋問するほうがいい。
「_あの、聞いてます？」
「…ん？」
話しかけられていたことに気づかずに、はっと気づけば目の前の美青年は呆れ顔をかましてる。
「俺の前で何ほうけてるんですか？
一人で可哀想だからまた来てあげるって言ってるのに酷い人ですね」
ちょっと待て、…別に来ることで彼が得することはないだろう。
「いや来なくても_」「じゃあ_また会いましょうね！」
「え」
私の返事もきかずに、にこっと笑うと長い髪をなびかせて彼は暗闇の中に消えていった。
参拾捌（振り返りみたいな感じです。面白くないと思います）→←参拾陸
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作者名：沙恵燬 | 作成日時：2019年11月25日 2時
