番外編 ありのままの君。【宇髄天元】 ページ32
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────自分がモテるっていう自覚は勿論あった。
俺もただの人間だから周囲からの熱に酔いしれちまうもんで、少し、いやかなり天狗になっていた中学時代だった。
顔も身長も性格も恵まれていたから恐らくクラスの女子生徒の半数は、俺に惚れていたんじゃないかとおもう。
人間ってのは醜い生き物だから、人よりも優位に立つことを好む。俺も最初は戸惑っていたが徐々に、徐々に人間らしさが溢れてしまうようになった。
まあだからといって女の子を取っ替え引っ替えなんて真似はしたことなかったし、するつもりもなかった。中学生にして俺は一般的な常識と理性を兼ね揃えていた。
────だけどそんなものは一瞬にして粉々になったのだ。
「宇髄天元くんだよね?少しいいかな?」
高校に入学してすぐの頃だった。桜吹雪が綺麗で。空中を浮遊する桜は淡い桃色をしていて、そんな桜みたいな淡い期待を心に詰めた俺に、声をかけてきた女の先輩は、信じ難いことを最も簡単にいってしまったのだ。
「────宇髄くん、上手って聞いたよ」
────俺はその時、幻滅したのだ。
今まで俺の周りに沸いていたあの子も、あの子も、あの子もそうだ。純粋な好意を持っていたのではなくあの子も、あの子も、あの子だって唇を舐め上げていたのだ。信じられなかった。
「何、言ってんすか。面白くないですよ」
「君こそ何言ってるの?本当のことでしょ?それとも何?ただの噂で本当は下手なの?シたことないとか?」
俺はこの時、何も自分には非がないと言わんばかりの表情である先輩に恐ろしいほどの憤りを感じた。
そして、俺の理性というものは最も簡単に崩壊した。それは小説に出てくるワンフレーズの一つで、まさか俺自身に降り掛かるとは夢にも思わなかった。
「結構、強引なんだね」と満更でもなさそうな表情の先輩に、鳥肌を立てながら俺らは誰もいない保健室の一つのベッドに沈み込んだ。
「……下手、なんだね」
初めて、というものはもっと、もっと。言葉ではいいようのないほどの幸福感と、好きという気持ちが溢れて、痛みも羞恥も何もかもをなかったことに出来るぐらいの代物だとおもっていた。
────実際は、ただ自分の中の大切な何かを引き換えに貰えるただの屈辱的な快楽だった。
苦笑いを浮かべながらいそいそと着替える先輩を横目に、ベッドのシーツを握りしめていた。
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三月の専属ストーカーなつめみく - れんごくさんがむせるとよもっ、って可愛すぎて一人で悶絶するわ (10月25日 16時) (レス) @page3 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - ひよさん» ひよさん、またお会いできて本当に嬉しく思います、そしてコメントもありがとうございます(;_;)天元様と夢主のキラキラして輝く瞬間と2人の葛藤を書けていけたらな、と思っております。ゆっくりではありますがお付き合い頂けると嬉しいです!よろしくお願い致します! (2022年5月5日 18時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 蓮さま、新作ありがとうございます!! 学校のアイドル、天元さまは似合いますね♡ 純な夢主ちゃんと天元さまの恋がどう進むのか楽しみです。更新はどうか、無理のないペースで!! (2022年4月29日 20時) (レス) @page7 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2022年4月24日 14時