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「……んだよ」


 宇髄天元は体育館裏にある廃れて錆び付いたベンチに力無く腰掛けていた。ここは屋根があるにはあるのだが所々雨漏りがあり宇髄の練習着はやや湿っている箇所があった。
 そんな宇髄に声を掛けたのは偶々、部活が休みでAの幼馴染である──煉獄杏寿郎だった。二人は選択科目が同じでありその授業を通して仲良くなった。明朗快活な煉獄を心底気に入った宇髄であり煉獄もまた実は情に熱く友達思いな宇髄のことは好印象で時を重ねなくとも良き友となった二人だ。


「言いてェことあんだろ」
「……Aは?」
「さあな」
「……宇髄なんだろう。Aに俺にチョコを作るなと言ったのは」
「流石。幼馴染さんだな」
「どうしてそんなことを言ったんだ。そんなことを言わなくともAは俺にはもうチョコは作らない」
「……幼馴染のあれ?何でも知ってるぞっていうマウント?」
「違うさ」
「じゃあ何」
「宇髄もAが好きならわかるだろう。あの子は素直で、正直で、優しくて、誠実で。そんな子が好きな人が出来て真っ直ぐに想うことぐらい想像がつく。だからそんなに案ずるな。Aは君のものだ」


 ここまではっきりと言える煉獄のことを宇髄は心底恨めしく思った。ある意味、宇髄は煉獄にこの先も勝てないと感じた。ずっと長い間、Aを見てきた奴だからこそ、こんなにも真っ直ぐで真剣で優しい瞳で言えるのだ。
 宇髄自身が予防線を張ることなど最初から不要だったのだ。それをまさか煉獄に気付かされることになるとは、宇髄は驚きを隠せなかった。しかしそれは同時にこんなにも心強い後ろ盾がいるということでもあった。


「……俺、まじであれは未遂だから。してねぇから……あの先輩とは」
「はは。あの先輩とはな」
「……いつからだ」
「何のことだ」
「……へえ。派手に最後までかっけぇ幼馴染なこと」
「もしも。もしもAを傷付けるようなことがあれば容赦しない」
「冗談に聞こえねぇんだよ、お前は」


 ははは、と豪快に煉獄は笑った。その笑みに少しだけ軽くなった宇髄は「ありがとう」と言った。どこか寂しそうな瞳の煉獄は空を見上げた。降り続ける雨を見て、「行かなければならないところがある」と言って煉獄は宇髄に背中を向けた。


「────煉獄!」


 咄嗟に宇髄の声に振り向けば宇髄は煉獄に向けて背中を直角に曲げていた。煉獄は鼻の奥がツンと痛くなるのを感じたがそれを無かったことにして雨の中に飛び込んだ。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 宇髄天元 , 煉獄杏寿郎   
作品ジャンル:恋愛
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三月の専属ストーカーなつめみく - れんごくさんがむせるとよもっ、って可愛すぎて一人で悶絶するわ (10月25日 16時) (レス) @page3 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ひよさん» ひよさん、またお会いできて本当に嬉しく思います、そしてコメントもありがとうございます(;_;)天元様と夢主のキラキラして輝く瞬間と2人の葛藤を書けていけたらな、と思っております。ゆっくりではありますがお付き合い頂けると嬉しいです!よろしくお願い致します! (2022年5月5日 18時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 蓮さま、新作ありがとうございます!! 学校のアイドル、天元さまは似合いますね♡ 純な夢主ちゃんと天元さまの恋がどう進むのか楽しみです。更新はどうか、無理のないペースで!! (2022年4月29日 20時) (レス) @page7 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年4月24日 14時

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