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「もしもーし」
「も、もしもし」
「……何、緊張してんの?」
「可愛いじゃん」と優しくて柔らかい声が私の左耳を撫でた。午後九時を少しだけ過ぎた頃、携帯の画面が光りそして鈍く震えた。携帯と同じく震えた指と声の私は宇髄くんから見たら面白おかしいみたいで、いつもみたいに宇髄くんは豪快に笑った。
そんな彼とは裏腹に片思い中の想い人から「可愛い」を頂いた私は通話開始数十秒程で既にRPGゲームでいう残りのHPが僅かになってしまった。恐るべし宇髄天元くんだ。
「……宇髄くんと電話は初めてだからちょっとだけ緊張してるかも」
「それってさ俺との電話、楽しみにしてたっつーこと?」
「……それはなんかずるいよ」
「俺は齋藤ちゃんと電話すんの楽しみだったし嬉しいよ」
「……みんなにそう言ってる……?」
「言ってると思う?俺が暇だから齋藤ちゃんに電話してると思う?」
「……そうじゃないといいなって私は思ってる」
ひとつまたひとつ、と宇髄くんから紡がれる言葉の数々は飛び上がってしまうほど嬉しいはずなのに意気地無しの私は可愛げの無いことしか言えない。きっと世界で一番、不細工な顔をしてるに違いない。
「欲しがりなんだなあ、齋藤ちゃんって」
「……ごめんなさい」
「俺は齋藤ちゃんだから電話したいって思ってんの。暇だからじゃない。齋藤ちゃんだから。齋藤ちゃんだから、俺は言ってる。……Aちゃんにだから言いてェんだよ」
「おーい」と、確信犯の笑い声が聞こえてくる。齋藤ちゃん、と呼んでいたのに急にAちゃんはずるい。そして私だから、と繰り返す。彼が繰り返してくれた言葉が胸の中に落ちて鼻の奥がツンとした。
「……私もね」
「うん」
「……天元くんと電話するの楽しみにしてた」
「……あーうん、悪りぃ。俺めっちゃ虐めてたな」
「天元くんってやばいな」って照れ隠しか、少しだけ咳払いをした。私はなんだか可笑しくなってきてしまって声を抑えることもやめて大きく笑った。そんな私に釣られて天元くんも笑い始めた。
空中を漂い続ける二つの笑い声が私を抱きしめるのだけれどそれはまるで天元くんが大きくて逞しいあの腕で抱きしめてくれているかのようで私は笑っているのにもかかわらずまた泣きたくなってしまった。
数学の課題をする、という建前の電話だが教科書を開かないまま、もう数十分が経過していた。学校でもたくさんお話をしているはずなのに途切れない会話が愛おしく感じた。
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三月の専属ストーカーなつめみく - れんごくさんがむせるとよもっ、って可愛すぎて一人で悶絶するわ (10月25日 16時) (レス) @page3 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - ひよさん» ひよさん、またお会いできて本当に嬉しく思います、そしてコメントもありがとうございます(;_;)天元様と夢主のキラキラして輝く瞬間と2人の葛藤を書けていけたらな、と思っております。ゆっくりではありますがお付き合い頂けると嬉しいです!よろしくお願い致します! (2022年5月5日 18時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 蓮さま、新作ありがとうございます!! 学校のアイドル、天元さまは似合いますね♡ 純な夢主ちゃんと天元さまの恋がどう進むのか楽しみです。更新はどうか、無理のないペースで!! (2022年4月29日 20時) (レス) @page7 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2022年4月24日 14時