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「ぎゃー!痛い!ムリ!今度こそ折れた!」
「アホか。A雑魚すぎ」
「酷い酷い!グレてやる!」
「はいはい。はよ保健室行ってこーい」
あれから、宇髄くんが教室の前を通るといわれても宇髄くんのことを見る事はなくなったし、友達が宇髄くんトークを始めればトイレに行ってくる、と席を立った。
彼の名前を聞く度に、どうしてこんなに胸が張り裂けてしまいそうなほど切なくなるのか、分かっているかもしれないが、分からないフリを続けてしまっていた。
何も無かった、彼とは何も無い、彼にとって別に私は何でもない。無かったことにする為に、授業やバイトに明け暮れる。そんな中、また私は体育のバスケで突き指をしてしまった。
指の鈍い痛みが、以前彼がしてくれた優しい手当と優しい笑顔を私に思い出させた。また、彼が保健室にいたらどうしよう、と不安がよぎった。
────どうしよう、また、ドアが開いている。
保健室のドアにはまた鍵がかかっていない。そして中を少し覗くと避け続けてきた影が一つ。どうして、どうしてなの。
「……齋藤ちゃん……?」
そこにいたのはまた宇髄くんだった。
「また突き指か?懲りねぇな」
ふわりと笑う宇髄くんは、「こっち」と椅子を指差した。
駄目だというのに。どうして駄目なの?行ってはいけないのに。どうして行ってはいけないの?自分の中で繰り返す自問自答。けれど、答えはすぐに出てしまっていた。
「……運動、音痴で。球技が特に駄目なんだよね」
「ぽいな。帰宅部のエースとか派手に胸張ってそうだわ」
「当たり。何で知ってるの?」
「天元様だからなぁ、なんて」
ガハガハと豪快に笑うのに、私の手を取るその大きな彼の手はどこまでも優しくてあたたかい。
笑い声が響く保健室。冬の昼下がりに生まれる風は冷たい筈なのにぬくもりがいっぱいで。窓から入る四角い光の粒が集まるそこは、キラキラと輝きを放ち、私たちを包み込んでくれているようだった。
「出来た」
「ありがとう」
「どういたしまして」
本当にどうってことない、と笑う宇髄くん。急に会話が止まってしまった。さっきとは打って変わり、静寂に包まれてしまった室内に漂うのは、先日のあの事。少しぎこちなく重たい空気に私は手足を掴まれてしまって、じゃあね、ということも保健室から出ることも出来なかった。そんな時だった。
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三月の専属ストーカーなつめみく - れんごくさんがむせるとよもっ、って可愛すぎて一人で悶絶するわ (10月25日 16時) (レス) @page3 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - ひよさん» ひよさん、またお会いできて本当に嬉しく思います、そしてコメントもありがとうございます(;_;)天元様と夢主のキラキラして輝く瞬間と2人の葛藤を書けていけたらな、と思っております。ゆっくりではありますがお付き合い頂けると嬉しいです!よろしくお願い致します! (2022年5月5日 18時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 蓮さま、新作ありがとうございます!! 学校のアイドル、天元さまは似合いますね♡ 純な夢主ちゃんと天元さまの恋がどう進むのか楽しみです。更新はどうか、無理のないペースで!! (2022年4月29日 20時) (レス) @page7 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2022年4月24日 14時