遭遇 7 【百side】 ページ44
「考えがまとまったら事務所に来るかそこに電話をしろ。私に直接つながる番号だ。」
「直接って…そんなにAが欲しいの?」
「事務所のこれからに必要なだけだ。…それに、黒瀬の好きなようにさせるのは気に喰わない。」
相当黒瀬のことが嫌いみたい。
どんな関係なんだろう?
とりあえず考えるのは後回しにして、お礼だけ言って名刺をしまう。
八乙女社長はもう一度オレとAを見てから車に戻って行った。
ホッとしたように運転席の男……女の人、いや男……まぁいいや。…が胸を撫で下ろしている。
動き出した車を見送ってからAに視線を戻すと、Aはまだ小さくなっていく車を見ていた。
「…A、帰ろ?」
少し手を引っ張って促すと視線を車から外してAも歩き出す。
それからしばらくオレもAも口を開かなかった。
オレは頭の中がグルグルしてて上手く話題が出てこなかったし、Aも何か考え込んでいるようだった。
『……兄ちゃん、八乙女さん嫌いなの?』
「えっ!?なんで!?」
やっと口を開いたのは家が近くになってから。
しかも全然予想してなかった話題で静かな住宅街にオレの声が響く。
慌てて口を押さえて声を潜める。
「…そんなことは無いよ?
…確かに性格はああだけど、自分のトコのタレントはめちゃくちゃ大事にする人だから。さっきもちゃんとオレの言ったこと、聞いてくれたでしょ?」
『…目が笑ってなかったから。』
「え。マジ?」
コクリと頷くAに感心してしまう。
Aは時々鋭い。
オレが気付かないようなことまで気付くし、とりわけ人の感情については敏感だ。
…オレはまだまだだな。
どっちかっていうと感情が表に出やすいタイプだったし…。
『…さっきのおじさん……やおとめ、さん?…嘘、多分言ってなかった。』
「…うん、オレもそう思った。」
キュッと握られた手に力がこもる。
その小さな手を強く握り返す。
「…八乙女事務所ね、所属してるタレントさん、みんなイキイキしてるんだ。ステージに立ってる時、本当に楽しそうに歌ってる。」
『…うん、見たことあるよ。覚えてる。…今なら分かる。』
「…そっか。」
きっと今のAの頭には柊雨の時の記憶が流れているんだろう。
同じステージだけど、前と今とでは見える景色の違うステージが。
「社長はああだし、関係者と揉めてちょっとトラブルになった、とか噂は聞くけど、タレントはしっかり守るところだよ。オレも候補に入れてた。」
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欅夏希 - とっても面白いです!感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています!お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます!!! (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テル | 作成日時:2020年3月3日 13時