心配と不安 ページ32
「別に身体は壊してないだろ?オレが好きで飲んでるんだし!
アルコールには強いんだよ、酔っ払ってでたらめな約束なんてしないよ。」
「アルコールに強くなるまでにどれだけ飲んだんだって言ってるんだよ。」
玄関に立ったまま千さんは兄ちゃんを問い詰める。
千さんは本気で兄ちゃんのことを心配している。
兄ちゃんはそのことをちゃんと分かってる。
「…ユキがオレのこと心配してくれてるのは分かってるよ、めちゃくちゃ嬉しいしありがたいなって思ってる。
だけど、付き合いだって必要なんだよ。……ごめんなさい、心配かけて。なるべく早く帰れるように気を付けてるけど、見逃してほしい。」
だから絶対に兄ちゃんの方が折れる。
喧嘩しそうな雰囲気になっても、そうなることを避けている。
「ユキと喧嘩したことくらいあるよ」って前に言ってたけど、実際に喧嘩してるところを私は見たことが無い。
私の前では喧嘩しないようにしているのかもしれない。
眉を下げて謝る兄ちゃんを千さんは納得いってない顔をしながら、「…分かった。」と言って許してしまう。
「Aも心配かけてごめん。オレは大丈夫だから!…そんな顔しないで、ね?」
そうやって私に笑いかける。
…でも、心配なものは心配なんだよ。
お酒だって、いままでそんなに飲んだこと無かったんでしょ?
飲み会があった次の日に体調が悪いのを隠してるのも知ってるよ。
仕事でも人付き合いでも無茶してるの、ちょっとだけ気付いてるよ。
Re:valeが人気になっていくほど、仕事が増えていくほど、兄ちゃんが家にいる時間が短くなった。
収入がまだ少ないからバイトも時間があれば行っている。
忙しいのに、疲れているのに千さんや私に接する兄ちゃんの笑顔は変わらなくて、そのことが私の不安を掻き立てる。
お水を飲んでから、「ちょっと風浴びてくるね」と言ってベランダに出ていく兄ちゃん。
千さんは兄ちゃんの背中を見送った後、お風呂に入ってくると言って扉の奥に消えてゆく。
部屋には私と、微かに残ったお酒の匂い。
…お酒のにおいは、苦手だ。
あの家にいた頃は、いつもお酒の匂いがしていた。
殴られるのは、お酒の匂いがするときだ。
もちろん、兄ちゃんはそんなこと絶対にしないって分かってる。
…でも、どうしても、刻まれた記憶が、染み込んだ痛みが、全身の筋肉をこわばらせる。
思い出しそうになった記憶を頭を振って消してから、もう眠ってしまおうと思い布団を敷く準備をする。
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欅夏希 - とっても面白いです!感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています!お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます!!! (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テル | 作成日時:2020年3月3日 13時