不可抗 ページ22
瞼を持ち上げると見慣れた天井が目に入り、まだ薄暗いことから夜明け前だと分かる。
『……………。』
すぐに目を開けたことを後悔した。
視界の端にぼやっと人影が見えた。
その影がゆらゆらと揺れるたびにギィ、ギィと板が軋む音がする。
【…また。】
眼を閉じて朝になるのを待とうとした。
でもすぐには夜は開けないし、気味の悪い音も消えてはくれない。
それどころか、
「………ゥ……ゥ……。」
苦しそうな呻き声まで聞こえてきた。
耳を塞いでも効果が無いのか、呻き声は止まない。
すっかり眠気も覚めてしまって、しょうがなく起き上がる。
千さんも兄ちゃんもまだ眠っている。
起こさないように立ち上がってキッチンへ足を向けた。
キッチンの隅、黒いシミの上で天井から吊られているその人は、もがくこともせずにゆらゆら揺れている。
静かに前に立って見上げる。
この人は、時々こうしてここに現れる。
昼間や夜中に見る時は部屋の隅や天井の隅にいるのに、明け方前のこの時間帯はこうやって首を吊られた状態で現れる。
どうしてかは分からない。
前にいた女の人の幽霊のよう成仏も出来ないみたいで、ずっと苦しんでいる。
『……苦しいの？』
小さく声をかけてみる。
反応は無く、ゆらゆら揺れたまま呻いている。
『どうしたら、あなたは楽になれるの？』
自分で自分の首を吊るなんて、普通の人は出来るはずがない。
この人は生きていたときから苦しんでいる。
死んでからもこうして苦しみ続けるなんて、この人が報われない。
呻き声の合間に微かにすすり泣く声が聞こえた。
泣いているの？
どうすればいい？
どうしてほしいの？
ふいに私もつられて泣きそうになる。
苦しい。
悔しい。
痛い。
悲しい。
いろんな感情が頭の中に押し寄せる。
この人は、もがくことも出来ず苦しみながら泣いている。
ごめんね、私には何も出来ないよ。
私にはあなたを助けることが出来ない。
ずっと苦しんでいるのに何も出来ない。
ごめんなさい。
せめて、少しでも苦しみが和らげば……
「A、」
突然名前を呼ばれてビクっと身体が跳ねた。
『……ぁ……？』
気が付くと目の前に吊られているあの人はいなくて、代わりに兄ちゃんが立っていた。
『…あ、れ……？』
なぜか私は右腕を前に伸ばしていてその腕を兄ちゃんが掴んでいる。
掴む力が少しだけ強い。
「…何してたの？」
怖い顔をした兄ちゃんが私を見下ろしたまま聞いてくる。
何を？
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欅夏希 - とっても面白いです！感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています！お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (
レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます！！！ (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：テル | 作成日時：2020年3月3日 13時
