【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。２

寝相 ページ13

なぜかガッチリと千さんに抱きしめられていた。
そのうえ寝た時と体の向きが反転してる兄ちゃんの足が私と千さんの上に乗っかていて、重たい。

…兄ちゃんってこんなに寝相悪かったんだ。
布団は部屋の隅っこに飛んでいて、お腹も出てる。

対して千さんはさっきからピクリとも動かない。
寝息が耳にかかってくすぐったかった。
何とか腕から抜け出そうとするけど、……全然抜け出せない。
ホールドされた腕は私の力じゃ解くことが出来なかった。
なんとか身体を捻って千さんを起こそうと声をかける。

『…千さん？おはよう、朝だよ起きて〜。』

「…ん〜……、」

眉を少し動かしたけど起きない。
またすぐにすー、すーと規則正しい寝息が聞こえてくる。

…人を起こすのってどうすればいいんだろう？
今まで起こされることも起こすことも無かったから分からない。
ぐいぐいと押し返したり、ほっぺをつついたり。

全然起きない。

『千さん、起きてってば！兄ちゃんも！』

「ん〜……あさ…？」

やっと兄ちゃんが起きてくれた。
乗っかっていた足がどけられてふぅ、と息を吐く。

「ふあ…ぁ、Aおはよ…え！？ちょっ、ユキさん！！？？」

眠そうだった顔が一気にシャキンと起きる。
慌てたように近くに来て千さんの腕をぐいぐい引っ張る。

「ちょっとぉ！いくらユキでもAを抱き枕にしてるのは兄として見過ごせませんぞ！！」

腕を解いて私を助け出しながら泣きそうな顔で言ってる。

「んー、眠い……。うるさい……。」

不機嫌そうに布団を顔まで被る千さんに「起きてよ〜！ユキ〜仕事だってば〜！」と起こそうとする兄ちゃん。

賑やかな朝。
こんなに賑やかなのは初めてだ。

「笑ってないでAも起こすの手伝って！」

無意識に笑っていたらしい。
寝坊助の千さんに寝相の悪い兄ちゃん。
朝から楽しい１日が始まる。

「あと、今日からユキはAの隣で寝るの禁止ね！！」

「……は？なんで？」

千さんが眠そうな顔のまま兄ちゃんを見る。

「教育上必要だからです！！」

私を抱き枕代わりにするのは教育上よろしくないらしい、兄ちゃんの中では。
千さんの頭の上にも、私の頭の上にもハテナが浮かんでいたけど、兄ちゃんの勢いに押されて頷いた。

話は終わったとばかりに再び寝ようとする千さんを起こして朝の支度をする。
布団を畳みながら千さんを引きずるようにして洗面所に行く兄ちゃんを見る。

『…ふふっ、』

…いいな、騒がしい朝って。

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