40話 苦しみの向こう側 ページ41
不「Aはすごいね」
ぽつりと、先輩が、擦れた小さな声で言った。
貴「え?」
先輩の方を向くと、そこにはいつもと変わらない笑顔がある。
不「強いよね。負けても次に向かえる強さがあるよね」
貴「でも、負けてからじゃダメなんです。競技途中どんなアクシデントに見舞われても、パフォーマンス力を落とさないように。そういうのってやっぱり、日々の練習だと思います」
不「ほら、そういうところがすごい」
微笑をにじませた声で、先輩が私を見る。
不「勝利に貪欲。なのに楽しさを忘れないでいられる。辛くても苦しくても、Aはいつだって楽しそうだよね」
貴「不二先輩だっていつも笑ってますよ」
不「そういうことじゃないよ」
何だろうと首をかしげる。
笑いながら、先輩は天井を見上げた。
不「楽しさっていうのを、自分以外の誰かに伝えられる。その後ろに苦労の欠片も見せないでいられる。そういうのって、すごいと思う」
とぎれとぎれの言葉の中で、先輩は力強くそう告げた。
私はただ茫然と、先輩を見つめた。
そんなことを言われたのは初めてだった。
ああそうだ。楽しいことばかりじゃなかった。辛いことの方が多かった。悔しくて苦しくて、やめたいと思った時だってあった。
それでも。
貴「負けた瞬間の、あの感覚が嫌いです」
そういうと、先輩はちいさく、「そうだね」と返した。
窓の外に目をやると、まだ雨が降り続いている。
貴「だけど、勝ちを手にしたあの瞬間。今まで練習してきたことすべてを出し切ったあの瞬間の、喜びって言葉だけでは表せないほどの興奮が、大好きなんです。今までの練習すべてが、この時の為だけにあったんだって、それだけで、私はまた、頑張れると思うんです」
雨なんてへでもない。また頑張ればいい。
貴「なーんつって、かっこいいこと言い過ぎ……」
恥ずかしくなって、一転おどけた口調で先輩に目をやる。
貴「……っ」
言葉を失った。息を呑んだ。
先輩の表情が、あまりにも優しすぎた。
不「僕も、そうだよ」
なにか決意を秘めた声で、先輩はそう言った。
不「そうだよね。勝った時のあの気持ちは、何にも勝ることはないと思うよ」
きっと先輩の方がいろいろなことを経験しているだろう。
天才ともてはやされる先輩。どれだけの重圧だっただろうか。
それでも先輩はそれをはねのけるように試合では魅せた。
でも知ってる。私だけじゃない。青学のテニス部は、みんな知ってる。
不二先輩の努力。
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葉奈(プロフ) - そうですww作者がにこにー推しですww (2015年5月17日 19時) (レス) id: b46f08eacb (このIDを非表示/違反報告)
ユール - えーと…にこにー? (2015年5月15日 18時) (レス) id: 63bdae9473 (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - ありがとうございます!がんばって更新しますのでよろしくお願いします!! (2014年11月30日 18時) (レス) id: 884e662617 (このIDを非表示/違反報告)
yunyun - 合格、おめでとうございます。本当に良かったですね。更新、楽しみにしてますね。 (2014年11月30日 15時) (レス) id: 329a32a11c (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - 雪代さん» ありがとうございます!!! 頑張りますのでよろしくお願いします! (2014年11月10日 22時) (レス) id: 884e662617 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2013年10月27日 21時