翼を、ひろげて

バンザイVenus JS#8 ページ8

ある晴れた春の週末。
近くのショッピングモールで
セールをしていたので、まとめ買いをした。
そろそろ帰ろうかな、と出口へ向かっていると







『あれって郡くん…?』
職場の後輩を見かけた。
私が直属の先輩として教育係を務めた子だ。
当時は毎日付きっきりで教えていたが、
今や彼は仕事にも慣れて
バレーの練習に割く時間も増えたから
週に1度会うか会わないかくらいで。
会わない間にどんどんかっこよくなっていく彼にとって、私の事なんて遠い記憶の彼方だろう。




レジ待ちの列にいる彼に声を掛けるのは
危険球だな、と思っていると。
『…え…?』








私に気付くや否や、
手をブンブンと振って
「来て!」と言わんばかりに
目を輝かせている。
あの瞳にやられてしまうのは、
もう何度目の事だろうか。








郡「Aさん、気付いてたんなら来てくださいよー!」
『いやー私の事なんか忘れてるかと思って…』
郡「忘れる訳ないじゃないですか、僕Aさんの事大好きなんで!」







…彼は本当に心臓に悪い。
私が彼のミスをフォローした時も、
差し入れをした時も。
彼の口からは決まって
"Aさん大好きです!"
という言葉が出てくる。
その言葉の前には
"先輩として"がついているはず、と思っても
あの笑顔で言われてしまうと
どうにも胸が苦しくなる。







郡「Aさん、大丈夫ですか?」
『あ、うん、そういえば郡くんは今日何を買いに来たの?』
郡「今日はトイレットペーパーと食品です!すっごい安かったんですよ。Aさんは?」
『私は服かなー、今年は新調するものが多かったの。』
郡「おーいいですね、Aさんいつもオシャレですし。でも今日はラフな感じで可愛いです!」
…こうしてまた私は勘違いを重ねていく。

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