翼を、ひろげて

ツン、 SB#11 request ページ12

去年の4月、入学したばかりの頃、
クラスの子と一緒に見学した男子バレー部で、
周りを見て的確な指示を出していた先輩に
一目惚れして、迷わず入部した。
後に、その人が"関田先輩"だと知ったけど
練習の間は勿論、そうでない時間も
話す機会など全く無かった。
それでもその姿を目で追うだけで
その頃は幸せだった。









仕事が長引いて帰りが遅くなったある日、
部室を出ると、

『……関田先輩?』
「…この暗い中女1人で帰ったら危ないだろ。」

そこに居た先輩と初めて話した。
詳しく聞くと駅周辺は女子高生が1人で居ると
声を掛けられる事があるらしく、
その心配をして待っていてくれたそうで。

…でも、
『なぜ私が電車で来ている事を知ってるんですか?』
「…この間の朝電車で見かけたから。早く帰るぞ。」









それから、関田先輩は部活が終わると毎回
私を待って帰るようになった。
人見知りで友達が少ないと言っていたけど、
毎日話しているとすぐに打ち解けて
数週間過ぎた頃には軽口を叩く程になっていた。









私の誕生日には駅の裏の自販機まで
何も言わずに連れて行って、
「誕生日だろ、やるよ。」
と言っていちごオレをくれて。
関田先輩の誕生日に同じ場所へ行って
バナナオレを渡すと、
「俺はゴリラじゃねーよ」
と笑いながらも
「ありがとう」
と言って受け取ってくれた。









こんな風にして仲良くなるうちに
その不器用な優しさに触れて想いが募って。
でも、"好き"の一言が言えないまま、
やって来た3月。









『休校……?』
感染症の流行で再開のメドもなく学校は休み。
勿論、部活の予定も白紙に。
会って話せるだけで幸せ、と思っていたけど
その"だけ"がどれほど贅沢で、
私にとって必要だったか
思い知らされた。









そして、関田先輩に一目惚れしてから
ちょうど1年の日。

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