注文はスマイル一つ ページ10
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私はQuizKnockでのアルバイトの他に、カフェでのアルバイトも掛け持ちしている。
QuizKnockのバイトの方が提出した記事に応じてバイト代が出るので働きやすいことには働きやすいのだが、やはりそれだけでは賄いきれないのがこの世。
このご時世、親が云々抜きでバイトを掛け持ちしている人は結構居ると思う。
それにお金はいくらあっても困らないしね。
「 いらっしゃいませ!二名様でしょうか? 」
「 はい 」
「 ではこちらのお席へどうぞ 」
息を吐く暇もなくやってくる客をせっせと席に案内し、テンプレ通りお冷やを届けては、呼び鈴の音に耳を澄ませて駆けつける。
バイトを掛け持ちして一番誤算だったのは、私が働き始めた少し後に雑誌に取り上げられ、お店が思った以上の人気店になってしまったことだろうか。
お陰でオフィスに出向く頻度は前の半分になり、最近はほとんど行けていない。
まぁ、バイトごときがオフィスに居座る方がお邪魔か。
―――チリンチリン
「 あ、いらっしゃいま…… 」
せ……って、なんで貴方がここに居るんですか。社長。
他のお客の注文を聞き終え、厨房に戻る途中、聞こえてきた入店音にテンプレを投げ掛ければこれだ。
社長は社長で、未だ慣れないエプロン姿の私を見て心底幸せそうな笑みを浮かべている。
いや、普通に怖いんだが。
「 ……何名様でしょうか? 」
「 一人で 」
「 では、こちらのお席へどうぞ 」
恐らく彼がかの有名な『 伊沢拓司 』であると瞬時に理解したのは、今この空間に居る人間のなかで私だけだろう。今の彼は眼鏡とマスクを着けているし、髪型もいつもと違うし。
私もなんだかんだ見破れるくらいには関わってきちゃったんだな……とほほ。
いつもの営業スマイルを忘れて、無表情のまま社長を席に案内する。
頼むからさっさとコーヒーでも紅茶でも飲んで帰ってくれ。余計なことは言うんじゃないぞ。言ったらはっ倒すからな。
「 ご注文はお決まりでしょうか? 」
「 あ、スマイル一つ 」
「 当店にはそのようなメニューはございません 」
平然とした顔でなに言っちゃってくれてんの社長。
スマイル一つ?それを言うならマック行けマック!あそこの店員さんなら笑顔で応えてくれるだろうよ!
私?応えるわけないだろ!
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時