充電はオレンジの飴 ページ43
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「 Aちゃんの愛情の味がする 」
「 恐らくそれは錯覚ですね。黙って食ってください 」
「 ほんとなのに 」
控えめに言って、Aちゃんから貰った飴は今まで食べてきた飴の中で一番美味かった。
たとえこの世におんなじ飴がうん万とあるのだとしても、俺は絶対この飴が世界一だと思う。
思えば、こうして彼女からなにか貰ったのは何気に初めてかもしれない。
いつも俺の方がおっせー押せ押せ状態だったから、なにかすると言えば大抵俺だった。
恋っていうのは押すばっかじゃ駄目なのかもな。恋愛2がなに知った口利いてんだって怒られそうだけど。
「 あと、ついでに記事の最終確認良いですか。山森さんに一応聞いてみてって言われたので 」
「 ん、了解。見せてみて 」
AちゃんからUSBを受け取って、自分のノートパソコンに読み込む。
現れたファイルをクリックして、見慣れた画面をスクロールしながら眺める。
うーん、特に問題は無さそうだけど。
「 ここの事実確認は済ませた? 」
「 ……あぁ、いや、そこはまだです 」
「 そこくらいかな。それ以外は完璧だから、終わったらファイル送って 」
「 わかりました 」
こうして彼女と仕事の話をしていると、バイトであることがとても惜しく感じてくる。
彼女の記事はどれも丁寧だし、言葉選びも綺麗。
比較的難易度は低めだけど、その中には必ず学びがある。
学歴では計れない頭の良さと言うのだろうか。
大学卒業か就職先が決まり次第辞めるという契約を結んでなければ、絶対誘ってるんだけどな。
これは恋とかそういうのを抜きにした、社長としてね。
「 ……社長って仕事してるときは静かで良いですよね 」
「 ナチュラルに貶してきたよね?そんなとこも好きだよ 」
「 うわ 」
「 シンプルなのやめて余計傷つく 」
さっきは楽しめなかったAちゃんとの会話を楽しんでいると、そんな時間を切り裂くように、机に伏せていたスマホが振動する。
画面をそっと覗き見ると、やっぱり通知だ。
< 伊沢さん、今度一緒にお食事とか行きませんか? >
< きっと伊沢さんも気に入ってくれますよ! >
< 伊沢さん? >
< 伊沢さーん? >
< もしかしてまだ寝てるんですか? >
次々と更新されていく通知を見て無意識に溜め息が漏れてしまったのは、完全に不可抗力だ。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時