立場なんて飛び越して ページ30
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「 そのままじゃ、風邪引くよ 」
「 ……別に、社長には関係ないじゃないですか 」
「 関係あるよ。好きな人だもん 」
持ってきた傘を半分以上Aちゃんの方に傾けて、雨を弾く。
弱いとはいえ、すっかり濡れてしまった彼女の指先は僅かに震えていて、暖めるように、俺はその手を握った。
こんなこと、本当はされたくないのかもしれない。あの反応だって、本当は迷惑だからしたのかもしれない。
でも俺は、生憎誰よりも諦めが悪いから。君が本気で拒絶してくるまで、この気持ちを諦めることは出来ない。アピールすることも、やめない。
それしか俺は、術を知らないんだよ。恋愛とか、今までずっと無縁だったからさ。
「 そんなに避けるのってさ、俺のこと、本気で嫌いになったから? 」
「 ……別に、そんなんじゃ 」
「 じゃあ、なんだろ。んー……立場が違うから、とか? 」
「 っ…… 」
この反応は当たりだ。彼女は感情がすぐに表情として現れるから、とても分かりやすい。まぁそのお陰で『 うげ 』っていう反応をよく分かるんだけど。
因みに俺がよく見る彼女の表情といれば、大抵それだ。
俺と彼女との間にある身長差を埋めるように、僅かに腰を折る。
いつもより、すぐ近くにあるAちゃんの顔。恋というフィルターがかかっているせいだろうか。顔に惚れた訳じゃないけど、やっぱりいつ見ても可愛い。一生見てられる。
「 俺とAちゃんはさ、確かに社長とアルバイトで、CEOとアルバイトだ 」
「……」
「 でもそれだけ。俺がAちゃん好きな気持ちに嘘はないし、これからだってずっと好きだと思う。たとえ、Aちゃんが振り向いてくれなくてもな 」
「 それだけって……私は、貴方に気軽に話しかけて良い立場じゃないんです。ましてや運転させたり、迎えに来させたり……挙げ句に、風邪を引かせたりなんて……絶対にしちゃいけない 」
元々彼女が立場という一線を引いていたことは知っていた。その分かりやすい例が、俺を『 社長 』と呼ぶところだ。
周りがいくら『 伊沢さん 』と呼ぼうとも、彼女だけは俺を役職で呼ぶ。
その呼び方を聞くたびに、俺は彼女との距離を痛感させられてきたんだ。
「 それだけだよ。立場なんて、飛び越えれば良い。俺は君と、対等な立場で居たい 」
君が好き。それだけじゃ、越える理由にはならない?
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時