消す時は黒板消しで ページ29
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今日も雨が降っていた。
俺の中の『 Aちゃんレーダー 』は彼女が大学に居ると知らせてくる。それに気づいた瞬間、俺は光と並走できるくらいの速度で仕事を片し、即座にオフィスを飛び出した。
福良さんがなにやら言っていたような気がするが、今の俺は誰も止められない。
流石に目の前に化け物が出てきたら止まるが。
「 Aちゃんの大学ってここか 」
なんだかんだAちゃんの大学に来たのはこれが初めてだった。
大体雨の日に迎えにいくのは駅とかバイト先であるカフェくらいだし、普段彼女の大学に用は無いから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
大学の敷地内に入ると、雨が降っているせいか、外には傘を差した学生達以外は皆建物の中に避難しているらしい。
それに今は丁度お昼時だから、余計に外に居る人間は少ないのだろう。
「 あ、Aちゃん居た 」
どうやらAちゃんもそのうちの一人だったらしい。彼女の姿は食堂にあって、正面には友達らしき人も居た。
二人してこちらを見ていて、隣に居るAちゃんと確かにバチッと目が合う。その瞬間、脳内に響き渡る心が射ぬかれるSE。目と目が合う前からとっくに惚れてたけど、また惚れた。はい好き。
目と目があっただけで惚れ直すとか、すっげぇ単純な奴に見えるけど、これAちゃんにだけだから。他の人にはそんなことないから。そこんとこ誤解しないで。
「 …… 」
「 え…… 」
けれどそんな幸せハッピーな気分は一瞬で、目があった筈のAちゃんは、まるで赤の他人のようにするすると視線を外してしまう。
上げた手だけが取り残されて、声も手も、すっかり行き場を無くしてしまった。
いつもならここで、怒ったりだとか、驚いたりだとか、顔しかめたりだとか、なにかしらのアクションをしてくれたはずなのに。
さっきのAちゃんの瞳からは、なんの感情も読み取れなかった。
強いて言うなら。
……少しだけ、寂しそうには見えた。
「 Aちゃん!! 」
「 っ……な、なんですか、社長 」
悪趣味だとは思うが、入り口で待ち伏せて、雨の中走って帰ろうとしているAちゃんを呼び止める。
彼女はいくら濡れてもお構いなしで、雨を防ごうともしない。まるで自暴自棄にでもなったその様子に、俺は慌ててAちゃんのもとに駆け寄った。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時