雨の日はお迎え日和 ページ14
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突然だが、俺はうちで働いている『 雫石A 』という子が大好きだ。
他は皆彼女の事を『 しずくちゃん 』と呼んでいても俺だけは意地で『 Aちゃん 』と呼んでいる。
意地というか、優越感?俺だけっていう?優越感??
まぁ流石に会社内では社長としての立場もあるので他の人と平等に扱っているが、オフィスを出れば関係ない。
だからなるべく詰まったスケジュールに空きを作るようにして、雨が降っていれば傘があるないに関わらず車を出すようにして、ただでさえながーい彼女との距離を詰めようとしているのだが、これがまた骨がおれる。
そもそものスタートラインが社長とアルバイトであるせいか、Aちゃんは一定の距離からこちら側に来ようとしない。
俺が半ば無理矢理こちらのテリトリーに入れても、彼女は直ぐに出ていって、線のギリギリ外から俺の事を見つめてくる。
例えるなら、そう。まるで物語の『 第三者 』のように。
「 Aちゃんもしかしてお困り?!乗ってく?!今なら婚姻届にサインするだけで良いよ?!? 」
でも、傘を忘れっぽいことを知ってからは、前よりも話す機会は圧倒的に増えた。
どこで彼女の居場所を仕入れているかについては『 勘 』としか言いようがないのだが、本当にその勘に従ったらAちゃんがいるのだから、俺の勘もまだまだ侮れない。
今日のAちゃんは傘を忘れていなかったらしいが、どうやら雨のあまりの勢いに立ち尽くしていたらしい。
俺の登場にわずかにだけど表情筋を緩めて、それから、すぐにいつものしかめっつらに戻ってしまった。
あの表情の変化は、少しだけ俺に心を開いてくれた証拠だと信じて良いのだろうか。
「 今日寒いし、肉まんでも買ってく? 」
「 大丈夫です。今そんなお金ないし…… 」
「 え?なに言ってんの?俺がAちゃんに貢ぐに決まってるじゃん 」
「 アイドルじゃないので貢がれても困ります 」
「 安心して。Aちゃんは永遠に俺の中のアイドルだから 」
「 安心出来る要素が皆無〜 」
助手席に乗っているAちゃんとの会話は、やっぱり楽しい。彼女と話している間だけは、なにもかも忘れられる。この後もある仕事とか、明日の事とか、自分の立場とか、全部。
だから、そんな遠くに居ないで、もっとこっちに来てよ。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時