たとえばこんな、出逢いでも【ky】

美味しいパン屋さん ページ8

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走るのすげー気持ちいい。今のオレ、最高に健康的だよな。季節もいい。花とか草とかやたら生い茂って緑が眩しいし、蝉の声もし始めた。あと少しで世間は夏休みだな。

…りくとりん、可愛かったなあ。今頃、学校と幼稚園行ってんのか。…そんな遠くないよな、住宅街の方にあんのかな。

別に近くを徘徊するつもりはないけど、ちょっとした冒険気分でクールダウンがてらいつもと違う道を散策してると、めっちゃいい匂いがしてきた。

ピンクの外壁の建物の角を曲がると、それはオシャレなベーカリーだった。

うわ、マジかよ！朝から何も食ってないのに、急激な飯テロ！しかもこないだやったプロメクの後からずっとオレ美味しいパンに飢えてんのよ、結局食えてないし。なんなら、ちょっとオレが作ったパン屋に雰囲気似てるじゃん。

遠目から店内を覗くと、平日の午前中だからか店内はそう混んでなかった。OLの通勤時間は過ぎてるもんな。2.3人のおばあちゃんがトレーを持って彷徨いてるだけなのを見て、オレはフラフラと店内に吸い込まれた。

「いらっしゃいませー」

焼きたてのパンの香ばしい香りと何やらお洒落なフランス語っぽい音楽。場違いな気がしてサングラスを外しポケットにしまう。…いや、サングラスを外したところで確実にオレは浮いてるがそんな事はどうでもいい。美味しいパンを買って帰ると決めたからな。

…どれも美味しそうで目移りする。腹が鳴りそう。うーん、めぼしいの全部買っちまうか…棚の前で考えていると、

「フレンチトーストとベーコンエピ、焼きたてでーす」

と言いながら店員さんがオレの前の棚に商品を並べた。うわっ！どっちも超うまそうじゃん、しかも焼きたて！これは絶対買うわ。

そう心に決めて店員さんがいなくなるのを待っていたら、

「よかったらご試食どうぞ」

小分けのパンが載ったトレーをニッコリとオレに差し出して来た。

「あ、ありがとうございます…」

手に取ったフレンチトーストの切れ端は瞬く間にオレの口から胃の中に染み渡った。店員さんがおばあさんたちにも試食を勧めに行くと、オレはフレンチトーストとベーコンエピとやらをすぐさまトレーに載せ、更に美味そうなパンをトレーに載るだけ載せてレジに向かった。

レジではさっきの店員さんがテキパキとパンを袋詰めしてくれ、満面の笑みで「2360円になります」と伝えた。

「はい、…あっ！」

やべ、嘘だろ…ランニング中だから財布ないんだった。キャッシュレス決済は…

「すみません、現金かカードのみになります」


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