たとえばこんな、出逢いでも【ky】

思惑どおり ページ28

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りんを連れて席に戻ると、開口一番Aさんの一言、

A「ほんと助かった、ありがと！」

…やはり、オレの思惑通り、いや巧みな誘導通り。

キ「絶対早く切り上げたいと思ってたしょ？」

A「うん、正直あの人苦手…」

ペロッと舌を出しながらサラッと本音を吐くAさん。…敬語なくなってるよね。

従兄弟のフリからの、電話でも自然なタメ口を利く事によって、そして共通の敵を倒す事によって深まる親近感。どうよ？この自然な距離の縮め方。…まあ、流石にまだ名前呼び捨てはできねえけどな。


そうこうするうちに午後の第一試合が始まった。りくがチラッとこっちを見たので、親指を立ててガンバレ！と伝えた。

キ「そういや、午前中の試合で何回かりく強く当たられて転ばされてて」

A「あー…小さいからどうしても狙われやすくて。前もそれで腕をやっちゃったりして」

キ「でも、旦那さん大きいからりくも大きくなるんじゃな…」

…あ。やっちまったわ。何言ってんだオレ。

A「あれ…？旦那、見たことあった…？」

キ「あ、いや、ほらリビングに飾ってあった写真をこないだ見た時に…背が高そうだな、って…」

A「ああ、そうか。うん、背は確かに大きいかな」

あーあ。アホだなオレは。なんでよりによって旦那の話題を出すんだよ。アホすぎる。

…その時、わぁっ、と歓声が上がった。相手チームのゴールが決まったのだ。

キ「えっ？！いや今のはオフサイドだろ！！審判よお！ねえ？Aさん、見てた？！」

A「えっ？？…うん、確かに！絶対そう！」

キ「…ほんとに見てた？」

A「み、見てた！酷いね！悔しいね！」

キ「…うん。あーあ、りくたち取り返せよー」


隣でスマホを弄りだしたAさんを高さを利用してそっと覗き込んだら、…なんだよ、『オフサイド わかりやすい』で検索してる…っ…クッソ、すげぇ可愛いなまっくそ可愛い、今ほんとギュッてしたいの我慢してっかんな？

そういやウイイレやってる時りくが、『ママは一生オフサイド理解できないからなー』って言ってたの思い出したわ。努力はしてるみたいだけどな、ママ。


その後の試合でりくがFWを任され、見事に一点決めた瞬間、オレとAさんは自然にハイタッチをして喜んだ。りんを膝に乗せて応援をした。
誰が見ても、仲のいい夫婦とその子供達だっただろう。

その日の大会は、見事りく達のチームが優勝した。


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