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_____「私ってば、なんもわかってなかった…ごめんなさい、みんなが愛してくれている自分を、大事にしなくて」
そんなふうに泣いていた日もあったか。
病の根本的解決を図るため、スメールの教令院による研究プロジェクトが立ち上がったのは、Aと出会ったあの日から3週間が経った頃のことだ。
原因もわからなければ治療法も定まらない未知の病であったが、別の学派にも協力を仰ぎ研究を進めたところ、それは元素が原因であることがわかった。どうやらAの体には元素の流れが滞っている部位があり、正常にそれを受け止められず、そこに留まってしまうらしいかった。ずっと腹を抑えていたのは、そこがまさに元素の停滞部位だったということだ。
「このお菓子、本当に美味しいよね。なくなったらと思うと身の毛がよだつよ」
「みんなが好きな菓子だからなくなることはまずないと思うけど…本当にそれ好きだね、君は」
提案された治療を粘り強く続け、Aはあの時が幻だったかのように、今は元気だ。色々な人と協力して研究を進めてくれたことに感謝してもしきれない、とプロジェクト構成員一同に深々と頭を下げた彼女の姿は、以前の面影を残しつつも、強くなったように見えたのを覚えている。
あのときの菓子を大層気に入ったらしいAは、執筆中にも口にしていることがある。小さなものではあるが、僕が伝えたかったあの気持ちをこんな形で彼女も味わっているのだと思うと、不思議な思いがする。
強いようで弱かったAだが、あれから随分と変わったみたいだ。根本的な彼女は変わらない。穏やかで、話す姿はあのときと大差ない。しかし、違いが明らかなのは、腹を抑えることがなくなったこと。そして、己の信念を持っていることだ。
これまで彼女に寄り添ってきて感じたことは、まるであの小説の世界にいるかのよう、ということだ。物語は違えど、現実と空想の間を生きているような、そんな感覚に差はない。
「今までは、とても狭い世界で生きてたのね。でも、一度その壁を超えてしまえば、外の世界は広かったよ。間違いを正してくれる人がいて、助けてくれる人がいた。それって、身近な人であったり、他人であったりする」
人は人に生かされている。そして、自分も自分に生かされている。我を変え、己と戦うことが、また自分と誰かのためになる。
彼女も僕も、そういう摂理の上に生きている人間なのだ。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時