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「諦めるのかい?」
「…もうなるようにしかならないもの」
「なら、僕が諦めないでいよう」
彼女は目をぱちくりさせて、苦笑いした。
「気持ちはありがたいけど、いいのよもう」
彼女は最後まで拒むかもしれない。でも僕は、それに最後まで抗って、彼女を生かしたい。
「君は良いかもしれないけど、僕はよくない。できることはしてみないかい?」
困ったように俯いてしまう。
外の世界を知ってほしい。それに、「変我剣記」の下巻を僕はまだ読んでいない。極めつけは、さっき僕たちは友達になってしまったということだ。…いかにして諦めろと言う?
「迷惑を…」
「僕がしたくてやるんだ」
Aは多分、僕が飛雲商会の御曹司だということを知らないのだろう。彼女の調子が悪いとはいえ、璃月の薬師で事足らないのであればスメールに連れて行くことくらい容易いことだ。今なら旅人もスメールに滞在しているというし、ツテはいくらでもあるだろう。
「いいかい?友というのはそういうものなんだ。僕と友になったということも、君の武器だ。医者以外の誰かには相談したのかい?自分が死ぬことのほうが、協力してもらうより迷惑だとは思わないのかい?」
「協力してもらうより迷惑…」
「ああ。君が死んだら、この家はどうなる?火葬の費用はどこから出る?…それは決まっていることだったとしても、一番迷惑に思われるのはこういうことだよ」
彼女は戸惑ったように僕を見て、腹を抑えた。
「君をこの世界から失うことだ」
なんの躊躇いもなくでたそれは、Aの中では幾度と跳ね返ったようで、ついには黙り込んでしまった。僕が持ってきていた菓子折を開けておもむろに食べだしてみると、俯いたまま一つ取った。
「君の担当者の泰然さんは、とても心配をしていた。名前は知らないが…茶屋の青年は、もし連絡がつかなければ間を持つと約束してくれたし、ここらの子供たちもみんな君のことが好きみたいだ。僕だって、君の書く小説が好きだ。もちろん、今日初めて君と会って、君という人間がいかに暖かいかもわかった。…僕が保証する。君を失って心を痛める人間が、たくさんいる。」
薄い膜を張って、誤魔化すように菓子を口にしたAを見て、安堵した。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時