【原神】星空はあなたのために【短編集】

変我剣記 / 行秋 ページ43

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「絶版？そんな、変我剣記が？」

「ええ。不評だったわけじゃないんだけど…。どうやら作家の体調が優れないみたいね」


　優れないだけで、絶版するだろうか？少し休止すればいいものを。


　『変我剣記』の下巻が出版するのは、今月のはずだった。中巻の巻末には、”無事に出版できれば、3か月後には皆様のもとに渡るはずです。”という小さな紙に刷られた告知が挟まっていた。だから、僕はこの3か月の間、まだかまだかとこの日を待ちわびていたのだ。…それなのに、いきなり絶版とは。


「残念ね。…作家の素性は全くわからないの。だから、体調が優れないっていう理由も本当かどうかわからないわね。優れないだけで絶版って言われても、さすがに不自然よ」


　僕はなんだか、体中の穴という穴から空気が流れ込んでくるようにそわそわとした。事実を知りたい。近頃熱中していた作品であっただけに、調べないと気が済まなかったのだ。


　僕は、まず作家と連絡を取れないか試みることにした。直接対面するのは難しいだろうから、あらかじめ手紙をこしらえておいた。僕の汚い字…と自分で言ってしまうのも良い気がするものではないが、これをその作家が読めるかどうかは運次第だ。

　誰かに代筆してもらうことも考えたが、旅人だって僕の字を読めるんだし、一度試して無理なようであれば、またやり直せばいいだろうと思ったのだ。


　出版社に赴き担当者を呼んでみると、目の下に濃い隈を刻んだ短髪の青年がせわしない様子でやってきたものだから、少し不安になる。


「お待たせしてすみません…。担当者の泰然と申します。この度はどういったご用件で…」

「『変我剣記』の作家と連絡を取りたいんだ」

「短住先生ですか…。というと、やはり絶版の件でしょうか？」

「ああ。出版社の方で詳細を把握しているのなら、その必要もないんだけど」

「いえ。体調が悪いから書くのはやめにします、としか。でもやっぱり、なんだか様子がおかしいと思っていました。…私たちは普段、手紙でやり取りしているのです。いつもの先生であれば、豊かな自然の景色を写し取ったような時候のあいさつに加えて、私のことを気遣ってくださるのですが…。あの日だけは、本当に必要最低限の事務的な内容のみが記されていました。」


　僕はますます怪しく思った。泰然さんが嘘をついているとは思えない。体調が悪いから手紙を書くのもままならない、と言われれば不自然であるとも言い切れないのだが。

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