ずっと、手を繋いでいられたら / 放浪者 ページ35
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この手の中の随分と若々しいそれが、ずっと変わらずあり続けてくれたら。どんなに考えたか、もうわからない。
今、という時間は一瞬にして過ぎていくのだ。その肉体は、僕が老いないまま歳を重ねる間に、すぐくたびれてしまう。失いたくないという僕の望みに反して、嘲笑うかのように寿命に侵されてしまうのだ。まるで小枝のように貧弱な手を握るとき、いつも灰になってしまわないか恐れてしまう。
「ほうら、見てごらん。指を立てて、こんなふうに紐を絡めるだろう。そうしたら、交差してできたこの隙間に…」
朱い紐が僕の指の間で絡まっていく様子が、彼女の手と僕の手が重なったときのように思える。こうして組紐を習うのも、最初こそ暇つぶしだったが、今では常にあいつの顔を思い浮かべている。この朱を僕が、次の青を彼女が持てば。ずっとそばにいられると思った。繋がっていられると。
…僕のほうから贈り物なんて、柄じゃないと自分でも思うが。
でも、何かを贈るのなんて初めてのことではないし、あいつのことだから"変なの"と言って笑うくらいで深掘りはしないだろう。僕がどんな思いでこれを贈るのかも知らないまま、彼女は一人でいなくなる。
静かでありながら、子どもがキャーキャーと騒いでいる。ただ、それもまるでないものかのように耳に障らない。慣れたように指を曲げている老婆を見る。あと70年もずれば、今度はあいつがここに座るのだろうか。
かつて僕が「傾奇者」、「傾奇者」、と呼ばれていた頃、人間を家族と思い、自らを人の見習いと思い、愛すべきものを愛し、愛されることをも愛した。
憎き個体による捕獲網にまんまと嵌められ、家族であったはずの人間を恨み、見下し、怒り、呪う。感情は捨てた、人間のふりをするのはやめたと言っておきながら、常に怒りという心を持つ矛盾した「散兵」は、それこそ人間のように朽ちた。
…僕は、信じるべきものを信じず、罰するべきものに気づかず、「散兵」などという残虐非道な人型に成り果てた罰を背負っている。辻褄合わせの歴史を生きて、なかったことにされた「愛」をまた、人間に抱いている。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時