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「パイモン、寝ちゃった」
「気持ちよさそうに寝てるし、私たちは向こうに行こっか」
そっと扉を閉めると、一人で座るには大きいソファに二人で腰かけた。
「雨、まだ降ってる…残念。空くんと一緒に星が見たかったんだけどな」
「…また今度、二人で見よう。必ず」
約束してくれるの?と驚くので、もちろんだと言えば照れたように笑って”ありがとう”と頬を掻いた。
「…あのね、私、本当は旅に出るのが夢だったの」
俯き、切なく話し始めたその声が胸の奥でこだまするのを感じた。
「小さいころ、友達と旅をするって約束したの。璃月でテイワットの結びつきをこの目で見る。スメールでレンジャーに会って、草木を学ぶ。それから、スネージナヤで雪遊び。…全部、私の夢」
「…じゃあ、その友達は?」
「あ…えへへ、大きくなってからそのことを話したら、”覚えてない”、”危ないから馬鹿げたこと言わないで”って、言われちゃった…」
熱を持った夢を語り合った仲間に否定されたそれは、彼女のトラウマなのかもしれない。
「だから、私は旅に出ないでモンドにいるの。…でも、今は空くんがモンドに来ることが楽しみだから。お土産話で十分なの」
震える声で弱まった雨とともに話す彼女を見ていられなかった。
俺は、彼女の手を取った。
「俺と一緒に、行かない?」
「…へ?」
「Aの言ったそれ、俺なら全部かなえられるよ」
潤んだ瞳が俺をまっすぐ捉えている。”でも”と静かに漏らす彼女に、俺は続ける。
「迷惑じゃないよ。Aが良ければ、俺は一緒に旅がしたい。Aじゃないとダメなんだ。Aは戦えるし、俺が絶対守るって約束する。…どうかな」
パイモンも喜ぶと思うんだ。そう付け加えると、また片方の手を合わせて包み込むようにした。
彼女の目からは、今にも涙が溢れそうだ。
「本当に、いいの?」
「考えは変わらない」
彼女はそっと目を伏せて、肩を揺らした。
「行きたい、空くんと一緒に」
その言葉をきいて、俺は酷く安心した。嬉しかった。
そっと抱きしめると、耳元で小さく”ありがとう”ときこえた。
これで、いつでも星を見られるね。
今までできなかったこと、たくさんしよう。
大丈夫、テイワットの星空は、俺たちのためにある。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時