紺田村の段 / ゴロー ページ27
※人形浄瑠璃・歌舞伎「野崎村の段」
・
いつかはこうなるとわかっていたのだが。
いきなりすぎたのだ。ゴローはただいつも通りに、海祇島で鍛錬していただけだったのだが、突然事が動き出し、実家の紺田村に帰されてしまった。事の経緯はこうだ。
ゴローには恋仲があった。海祇島で軍医をしているAである。本来は大店の娘で、軍医などする身分ではないのだが、その知識と技術を軍が必要としたために、自らの母をも説得してまで手伝いをしていた次第だ。軍で仲間として出会った二人は、次第に惹かれ合い、今では恋人同士の関係である。
…それはまあ、こそこそと。
大店の娘と兵士との身分違いの恋が許されるはずもなく、Aには嫁入りの話が持ち上がり、ゴローはあらぬ疑いをかけられ、二人は引き離されてしまったというわけだ。
更に、ゴローは紺田村に許嫁があり、帰れば当然結婚をする流れになるのである。これで互いに結婚させられ、もう結ばれる術はなくなってしまった。
「ゴローさん、祝宴の準備でお疲れでしょう?私、昼餉を作りましたから一緒に食べませんか…」
「……ああ、頂こう」
ゴローの結婚相手はお蜜という。義理の両親の実の娘で、ゴローに対する憧れを昔から抱いていた。結婚が決まった今、気分が高揚し乙女らしく舞い上がっている。ずっと萎れて、本来の明るく堂々とした性格が嘘のようであるゴローに不安を感じることもあるのだが、なんとか元気を取り戻してほしいと思うばかりだ。
「ゴローさん。やっぱりお疲れでしょう?冴えないお顔されてます…。今日はもうお休みになられて、明日にまた…」
「いや、大丈夫だ」
「そうでしょうか?…」
せっかくの料理も喉を通らないほど、今は愛する娘のことしか考えられなかった。お蜜にはなんの罪もないのだが、あのとき彼女が握ってくれた米の塊のほうがずっと美味しいとさえ思ってしまう。乱暴に咀嚼して口内を何度も犬歯で噛み、血液交じりの料理を無理やり飲み込んだ。
193人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時