暖をとる / アルベド ページ22
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雪は痛いほど冷たくて、とても心地良いものではなかったと記憶している。
吹雪の日、まともな食事も摂れずに死ぬか生きるかの境目を生きていた私を雪の上に座らせて、そのまま姿を消した母の背中が思い浮かぶ。もうあまり覚えていない。ただ、最後に身体いっぱいに感じられたあの温もりは、もう冷たくなって土の中に眠っている。足を運べば確かに存在するのだから、これだけは忘れようがない。
希望を捨てきれず、中途半端に私を泥まみれの生活から逃した母。母の残酷な死に様を知ることすらないまま、命絶えてくれるかもしれない。もしくは、通りかかった誰かが拾ってくれたら、今度こそは幸せになれるかもしれない。そうやって我が子を思い、心臓すらも子に捧げる覚悟でいなくなった母を、私は今の今まで間違いなく愛している。
寝そべって埋まった耳が、そろそろ凍りそうなくらいに痛い。腕や手は、雪と違って真っ赤に染まっている。痛い。けれど、今は心地良い。あのときと違って、この白い絨毯全てを愛せる気がする。
目を閉じた。私も、雪になれたような気がした。
どこかから、雪が沈む音がしたような気がしたが、どうでもよかった。
「…こんなところで何をしてるのかな」
目を開ける気力も起き上がる気力もない。私は雪なのだから、人の言葉は話さない。声をかけてきたのが誰であろうと、私に応じる気などさらさらなかった。
「風邪をひくよ。…いや、体中が霜焼けになる方が先だね」
近くに座った。ただ、それでも目は開かなかった。開く必要もなかったから。そこに誰がいるのかなんてとっくにわかっているから。…雪のくせに、人間みたいに頭を使う。
「帰るよ、A」
もう眠くなってきたんだけど、アルベド。
何も言わずに体を起こされて、薄ら目を開くと、彼は白い息を吐きながら"放熱瓶も持っていないなんて"と呟いていた。力が入らない。眠い。もたれかかって触れた腕と腕の温度差が、焼けるように痛かった。
誰のなんてどうでもいいし、少し考えれば分かるのだけど、上着を掛けられて。それから背中にのせられ、いつかとある錬金術師に拾われたときのように私はまた運ばれた。まだ小さかった二人が、同じように山を登っていく。この景色、あのときと同じだ。…黒い、瞼の裏側。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時