検索窓
今日:4 hit、昨日:52 hit、合計:55,013 hit

ページ13





 掴まれた腕が痛い。冷たい。何度も聞いたその声が誰かなんて、嫌なほどすぐにわかってしまう。


「へいぞう、!」

「…」

「ちがうの、ちがう。やってないの信じて」


 信じてくれないなんて十分理解している。それでも、私は彼に突き放されたくなかった。とっくに突き放されているけど、それをわかりたくなかった。


「証拠は、揃ってる」

「嘘なの、やってない、ほんとのことじゃないの、おねがい信じて平蔵、!わたし人ごろしなんてしてない、ちがう、」

「僕は君を捕まえたくない、でも何度調べたって証拠は君だって言ってる」

「平蔵!!しんじてよ!わたしじゃない、ちがうから!!」


 その瞳に寒気が走る。ひどく怖かった。怖くて、必死に違うと叫んだ。大好きだったその手、いつも私の手首を優しく掴んでいたその手に珍しく縋るように触れた。

 のに。

 その瞬間、鋭い痛みが走ると、平蔵は瞳を揺らして後ずさっていた。

 
「ぁ、っ…」


 …涙は相変わらずだけど、もう目の前が、心の中が、一面真っ黒に染まったようだった。

 彼は俯く。私は何もできなくなった。戸惑ったように体を震わせる彼が見えている。


 そして、また数歩後退りした彼が、私にただ一つ、言った。


「…行って。どこか遠くに、君を信じてくれる人のところに」



 虚無に放つように小さく、でもはっきり強く。ゆっくりとまた私を捉えた彼の顔は、苦しそうだった。


「僕は、君を捕まえられない。…まだ、直感は君じゃないと言ってるんだ」


 はやく。
 働かない頭は、その指示をはっきり捉えた。そしてゆっくりと私自身を急かして、勝手に彼に別れを告げる。


「…生きて、A」


 彼はそう言って強く私の背中を押して突き飛ばした。乱暴なそれに戸惑った。一度振り返って見た顔が私をまた突き動かす。

 涙になんてもう慣れた。ただ前を向いた。

□→←信じてくれるあたたかい人 / 鹿野院平蔵



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (66 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
193人がお気に入り
設定タグ:原神 , gnsn , 短編集
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。