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掴まれた腕が痛い。冷たい。何度も聞いたその声が誰かなんて、嫌なほどすぐにわかってしまう。
「へいぞう、!」
「…」
「ちがうの、ちがう。やってないの信じて」
信じてくれないなんて十分理解している。それでも、私は彼に突き放されたくなかった。とっくに突き放されているけど、それをわかりたくなかった。
「証拠は、揃ってる」
「嘘なの、やってない、ほんとのことじゃないの、おねがい信じて平蔵、!わたし人ごろしなんてしてない、ちがう、」
「僕は君を捕まえたくない、でも何度調べたって証拠は君だって言ってる」
「平蔵!!しんじてよ!わたしじゃない、ちがうから!!」
その瞳に寒気が走る。ひどく怖かった。怖くて、必死に違うと叫んだ。大好きだったその手、いつも私の手首を優しく掴んでいたその手に珍しく縋るように触れた。
のに。
その瞬間、鋭い痛みが走ると、平蔵は瞳を揺らして後ずさっていた。
「ぁ、っ…」
…涙は相変わらずだけど、もう目の前が、心の中が、一面真っ黒に染まったようだった。
彼は俯く。私は何もできなくなった。戸惑ったように体を震わせる彼が見えている。
そして、また数歩後退りした彼が、私にただ一つ、言った。
虚無に放つように小さく、でもはっきり強く。ゆっくりとまた私を捉えた彼の顔は、苦しそうだった。
「僕は、君を捕まえられない。…まだ、直感は君じゃないと言ってるんだ」
はやく。
働かない頭は、その指示をはっきり捉えた。そしてゆっくりと私自身を急かして、勝手に彼に別れを告げる。
「…生きて、A」
彼はそう言って強く私の背中を押して突き飛ばした。乱暴なそれに戸惑った。一度振り返って見た顔が私をまた突き動かす。
涙になんてもう慣れた。ただ前を向いた。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時