【ヒプマイ】君と。【短編集】

白膠木簓／届かない ページ29

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今をときめく売れっ子ピン芸人、白膠木簓。

芸人とは思えぬその顔の良さと、音楽のようにその口から流れ落ちる人を笑顔にする魔法で、世の白膠木簓の女性ファンはガチ恋勢に堕ちること待ったナシ。

…なんて、アホみたいだと思った。

隣で人の気持ちも考えずにぐーすかと眠りこけるこの人がそんなにいい人なのかと頭を抱えた。

……いや、まぁ、初めはいい人だったのかもしれない。もしくは、私の視界が狭過ぎたせいかもしれない。

付き合いたて当初は、それはもう溺愛の文字をその体で表したかのように、デレデレで甘々だった。

そんなのも、あっという間。

欲しいものを手に入れてしまえば、あとは飽きて捨てるだけ。

人間なんてそんなもん。

暗い寝室でスマホ画面の仄かな光に照らされた私の顔。

｢はぁ…｣

画面に映し出されているのは、とある芸能人の熱愛報道。

とある、なんて言ったけど、本当は隣で寝てるこの白膠木簓の熱愛。

焚かれたフラッシュに眩しそうに眉間にシワを寄せ、簓にしがみつく女性を庇うようにして立つ彼は、まさにお忍びデートと言うに相応しい服装をしていた。

『今をときめく超絶売れっ子ピン芸人白膠木簓、美人で有名な若手女優と熱愛！！？』

なんて、大袈裟に大袈裟を重ねたような記事の見出しをそっとなぞる。

彼が浮気をしていたなんて、今に知ったことじゃない。

いや、まあ、私が浮気相手なのだろうけど。

付き合い始めてから、およそ1年と半年がすぎた頃。
浮気相手としてはよくもった方だと思うけど。

彼の態度が著しく変化したのはその変だったのを今でも覚えている。


………

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