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思いもよらない行動にキョトンとすれば、食べたいんだろうと少々的はずれなことを言う。あんなにもドンピシャで当ててくる神津でも、やはり人間なんだと今更なことが脳裏を過った。
なんとなく見つめていただけの苺を、有り難く頂く。数回咀嚼して、改めて良いのか聞けば、そんなに好きじゃないしなと彼女は言った。
嘘だ、と思った。
「なんかごめん」
「そんなに好きじゃないんだ。謝る必要はない」
本当は食べたかったんだろうなというのが、なんとなく声音で分かる。俺の嘘を下手だと言っていたが、自分もそんなに上手くないじゃないか。
「さてと、では仕事の話をしようか。須貝駿貴君」
「君付け?珍し」
「あぁ、仕事の話をするときは君づけなんだ。慣れてくれ」
いつもはフルネームで呼び捨てする彼女が、初めて俺を「須貝駿貴君」と呼んだ。それがなんだが新鮮で、可笑しくて、思わず吹き出す。どことなく不服そうな顔をしている彼女には、あとで謝っておこう。
「君の笑いも収まったところで、早速本題と行こう。君が睡眠不足になるほど悩んでいることはなんだい?」
「んー悩んでるというか、気になってることなんだけどさ、最近部屋に居てもずっと視線感じて、落ち着かないんだよね」
「ほう、視線」
「一応カメラとか、壁に穴開いてないとか確認したんだけど、特に異常なし。気のせいかなとも思ったんだけど、やっぱ気のせいじゃないと思うんだよ、俺」
「それで良い。今まで出会ってきた中にも、自意識過剰かもしれないと言って放置していた結果、結局カメラがあった事例もある。自分の感覚を信じるというのは大切なことだ」
彼女とは同い年な筈なのに、何故か彼女に「それで良い」「大切なことだ」と言われると、不思議とあぁ自分は間違っていなかったんだという感覚になる。神津の言葉には、同い年とは思えないほどの、説得力と力強さがあった。
「よし、では早速後日調査に行こう」
「いやあんたまだ退院まで時間あるでしょ」
「抜け出せばなんとかなるさ」
よろしく頼むよ、共犯者君。そう言って不敵に笑う彼女を咎めず、「はいはい」なんて言ってしまう俺も、随分と彼女に甘くなってしまっているのだろうか。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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