愛とか恋とか《短編集》【 sh 】 (ページ42)

今日:24 hit、昨日:1 hit、合計:119,088 hit

◎：暑熱ページ42

．

生憎、私は嫉妬をしない。

「暑い」
『な』
「もっとそっち行ってよ」
『むり』

初夏。蒸し暑い季節を迎え、私のものではないオーバーサイズのＴシャツに袖を通す。エアコンはまだ早い、だなんて言い合いもしながらソファに寝そべった紫耀のお腹に頭を預けた。仰向けになりながら勝手に私の携帯を弄り、顔の前でHuluを大音量で流している横で紫耀の携帯が振動した。

ブーブーブー

「電話」
『ん〜、誰？』
「さあ？知らない番号」
『どうしよ、ファンの子だったら』
「どうやって出回んのよ」
『そっか』

再生を一旦中断して、上から覆い被さるように紫耀が伸し掛かってきた。香水の匂いが一気に広がって、髪の毛はぐちゃぐちゃ。もしもファンの子だったら、……なんて不安も過ぎる中、まさかの矛先が向く。

『……あ、元カノだ』
「……え、？」
『なんか見覚えあるなあって思ったんだよ』
「……紫耀の元カノ、ってこと？」
『うん』

何食わぬ顔で平然と淡々と繰り広げられる独り舞台。場違いな感情が交差する私の脳内が追いつかない。今まで特に気にしてこなかった元カノ事情が今になってグサリと胸に突き刺さった。

「大事な用かもしれないじゃん」
『いやいや俺にかけてくる意味が分かんないでしょ』
「そうだけど、」
『なに、出てほしいの？』
「……違うけど、」

やんわりと紫耀にはバレないように冷静を装ったけど、それどころじゃなくなった。前言撤回。前の彼女の電話番号まで覚えているなんて、ちょっと妬ける。いや、だいぶ妬ける。こんなタイミングで発動するなんて恥ずかしすぎる。

．