42.加密列の香り袋 ページ42
「この二人の子どもは
何の取り柄もない俺の唯一の宝なんだ…」
私は彼にハンカチを渡して微笑んだ。
「それなら、この姉弟にとってのあなたも
同じようにかけがえのない大切な人ですね。
きっとあなたの帰りを待っていると思います。」
夕暮れの街並みは泣きたくなるくらいに優しい色で
橋の下の水面もあたたかな橙色に染まる。
「そうだな…
君みたいな若い子に諭されるなんて
情けないおじさんだなあ…
この頃絵が上手くいかなくてね…
絵は誰にも認めてもらえないし、
仕事も上手くいかなくなって…」
「上手くいかない時って、
とことん上手くいかないですよね。
そんな自分に嫌気が差すことも…」
男性は子どもの絵を空に掲げて笑顔を見せた。
「はは!俺は大切なことを忘れていたよ。
どんなに辛くても、苦しくても、
この二人の笑顔を見るためならいくらだって
頑張ってきたんだ。」
「私は辛い時は立ち止まってもいいと思います。
でも後ろに向かって歩くことだけはしないで欲しいです。
あなたの未来は決して真っ暗ではない。
だってあなたは一人ではないから…」
魚の鱗のような雲がいくつも並ぶ空を
赤蜻蛉が仲良く飛び回る。
「…ありがとう。君は何者なんだい?」
「私は…名乗るほどの者ではありませんよ。
素敵な絵を見せていただいてありがとうございました。
あ!そうだ!これをあなたに差し上げます。」
私は
「何だい?」
「甘く優しい香りで、
心を和ませてくれる花の香り袋です。」
私が男性と話をしていると、
鎹鴉の和咲が私の肩に止まった。
「日ガ暮レルヨ!
ソロソロ任務地ヘ急イデ!」
そうだ。もう向かわなければ…
「では、私は行きます。
もう…大丈夫ですか?」
「ああ、君のおかげだよ。ありがとう。
またどこかで会えたらさ、今度は君の絵を贈るよ!」
「そんな…!嬉しいです!
では、お元気で!」
「うん!姉ちゃんもな!」
私たちは男性に別れを告げると任務地へと急いだ。
「Aさんは優しいお方ですね。」
相之助くんが穏やかな顔で私に告げると、
花子さんは目を輝かせて私の手を握った。
「かっこいいです…!!」
そんな目で見られると…嬉しいけど恥ずかしい。
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狐姫(プロフ) - ハウンさん» ハウンさん、こちらこそお読みいただきありがとうございます!引き込まれると言ってくださり大変光栄です!続編も更新しましたので、引き継ぎお楽しみいただけるよう頑張りますね! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» misakimiさん、ありがとうございます!まっすぐな煉獄さんの深い愛情が表現できていれば…と思います。これからもそんな彼を言葉だけではなく、仕草や態度での表現ができるように努めたいところです! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
ハウン(プロフ) - 素敵な作品を作っていただきありがとうございます!ものすごく感情移入してしまって胸が締め付けられるくらい引き込まれました!続編楽しみにしてます! (2022年2月28日 23時) (レス) id: 065a2165a6 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 今日も煉獄さんが素敵だ。押し付けがましいところは一切なく、ただただ彼女の幸せを願い笑顔を作れる彼は本当に素敵。 (2022年2月28日 21時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 彼はあまり内緒話など出来なさそうですよね(笑) 巧いだなんて言っていただけて…嬉しすぎて今夜は幸せな気持ちで眠れそうです〜!いつもありがとうございます。 (2022年2月26日 21時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume
作成日時:2022年2月5日 21時