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たっぷり溜めて返した一言には、それはそれはいろーんな気持ちを込めたつもりなんだけど、聞こえてなかったとでも思われたのか、「歌手だよ、かーしゅ」と繰り返される。
いやいや、違うし、
つーかこの至近距離で聞こえなかったわけないでしょーよ。まだそこまで耳遠くないわ。
そうじゃなくてね?
「やですよそんなの」
「なんでだよ、やってみろよ」
「やですってば!何で急に、そんな」
そう、何を急に突拍子もないことを言い出してるんだこの人は。
歌手デビューってことは、仮録りでもないのに自分の声で歌を歌うってことでしょ?しかもそれがテレビやらラジオやらメディア媒体で流れるってことでしょ?
むーりー!むりむり!
いやだ!耐えられない!
大体、練習生でもないただの作業室の引きこもりにそんなこと何でさせようとしてるわけ?候補生なら山ほどいるのに。
「今までのようにあいつらや他のアーティストを通してじゃなくて、自分で自分の歌を伝えてみろ。Aにはそれができる実力があるんだから」
「実力なんてそんなの、」
「あるよ。俺が保証する」
ぐっと言葉が詰まる。
この人は誰もが認める凄腕プロデューサーだ。
防弾少年団をはじめ、所属するアーティストや練習生を育てて、トップを目指すために全てを惜しみなく教えてくれる。
父であり、兄であり、師匠であるパンPDのその言葉は重すぎて、簡単に否定できるもんじゃない。
…いや個人的には全力で否定したいんだけどね。
「別に今すぐ答えを出せってわけじゃない。急なのは俺も分かってるからな。だからちょっと考えてみろ」
「…考えても無理って思ったら?」
「心配するな。俺が論破してやるから」
…そんな心配してないわーい!!
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作者名:tnk | 作成日時:2016年10月16日 22時