一、こっちとしては不本意だけど、うどん的には本望 ページ1
「喉が痛いんだ」
「だったらもうお休みになられては?」
カウンターで手に顔を伏せている三十路、降谷零。カウンターの向こう側で今し方冷蔵庫を閉めて「うーん」と唸るハタチ、円堂A。
彼らの関係を問うのであれば、知り合いの一言に過ぎない。が、知り合いと言い切るには随分と仲が良く見えた。少なくとも、彼と彼女を知る人間からしてみれば。
「づれないごどを」
「鼻声ですね。安室さん、風邪は鼻からですか?」
「喉がらだ」
「じゃ、手遅れですね。風邪の人にはお粥と相場が決まってるんですが」
閉めた冷蔵庫から振り返った円堂は、降谷の方を向いてまだ何か悩んでいる。顎に手を当てながら、「お粥か……」と自分で言っておきながら何か不服なようだ。
「季節の変わり目ですからね」
「お粥……は、腹に溜まらん」
「言うと思いました。しかも今お米炊いていないので、すぐにはできません」
「君がお粥と言い出したんだろ」
「なので、うどんとかどうです?」
降谷は顔を覆っていた手から、頭を持ち上げた。円堂を見据える。
「いいと思う」
「風邪を引くと素直が残るのかしら」
「聞こえてるぞ」
*****
料理を始める前に、まずお湯を沸かしなさい。
鍋でもやかんでもいいから、たっぷりのお水をそれに汲んで、火にかけるの。
お湯は何にでも使えるからね。あったことに越したことはないわ。使わずに冷めてしまったら、また沸かしてお茶でも淹れたらいいから。
円堂はやかんにたっぷりの水を入れて、三つあるうちの一番奥の小さなコンロにそのやかんを乗せて火をつけた。三つあるコンロは三角形に並んでいて、両手がわに二つ、その間の奥に小さいものが一つ。その一番小さなコンロにやかんを乗せた円堂は、火加減をちらりと覗く。
片手鍋を取り出すと、そこに冷蔵庫から取り出した出汁をとくとくと注ぎ、火を付ける。
冷蔵庫から、うどん二玉、太ネギ、干ししいたけを水に浸した密封瓶、牛こま肉を取り出した。
干し椎茸は、料理に使う分だけ戻すのは案外時間がかかる。一々料理の時に戻してはいられない。ので、円堂は定期的に干し椎茸を瓶にひとつかみ入れて、そこに水を入れておいておく。
すると、椎茸は水に戻るし、入れておいた水は椎茸の出汁が出る。これが案外、便利なのであった。
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◎たなは◎(プロフ) - cです。さん» 今回は赤井さんの登場がちらほらと出てきますので是非ごゆるりとお付き合いくださいませ!(降谷さんの心は治安悪化しているようですが笑) (2019年11月29日 18時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
cです。 - 最高です。お馴染みの飯テロに加え、今回は赤井秀一の登場しかもラナンキュラスいろんな意味で最高です。大好きです。これからも応援しています。 (2019年11月29日 1時) (レス) id: 1509f3e8ae (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - ありまさん» 気づいてくださり、ありがとうございます!! タイトルと本編では大した意味はありませんが、間違いなく前作から読んでいただいても今作からでも「そりゃ喧嘩するよね」となると思います。二人の関係性が曖昧すぎますからね……(誰のせい)(私) (2019年11月27日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 柑橘さん» 私も良い感じにかっこつけられない降谷さん大好きです。とても愛おしい笑 穏やかな更新になりますが、どうぞお付き合いくださいませ! (2019年11月27日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
ありま(プロフ) - 最初はなんだこのタイトルは?と思いましたが、気づいてしまいました…これはすごい。 (2019年11月26日 17時) (レス) id: 827fe84146 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2019年11月26日 1時