私はラメントーソ (ページ46)

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『だからそんな顔すんなって』

嶺亜の指がそっと私の頬をかすめる

『Aがあの大学に入ってくれてよかったよ。…俺、子供の時より今の方がずっと幸せだもん』

『本当に？』

『うん。それもこれも全部Aのおかげだよ。だからお前は俺に感謝されこそすれ、恨まれる覚えはないってこと』

『れいあ…れいあ！ううん、

嶺亜お兄ちゃん…！』

止まることのない涙を隠すこともせず、ただただ私が啜り泣く音だけが響く
お隣からクレームとか…来ないかな、、とかこんな時までちょっと冷静な自分が恥ずかしい

『妹…』

『いやいやいや、そこは名前呼びでいいでしょ！なんすか！妹って』

『…あれ、矢花いたの？』

『もう、先輩も嶺亜君も酷いっすよ！』

『ごめんごめん、矢花も色々ありがとうね』

『俺なんてなんもしてないっすよ…』

『そうよ、矢花なんもしてないよ』

『酷いじゃないっすか！買い出しとかしましたし、、！』

『何よ買い出しごときで偉そうに！！』

『二人とも喧嘩すんなって。矢花。くれぐれもこれからもAをよろしくね』

くれぐれもよろしくって何なの嶺亜
なんか父親みたいで笑っちゃう

矢花も矢花で嶺亜君親父みたいっすねなんて言って嶺亜の機嫌を損ねそうだし
…あぁ、なんだか日常に戻ったみたいでよかった

『じゃあ俺、仕事戻るから』

『え、嘘。仕事だったの？ごめん！』

『大切な大切な妹のためだし…？』

『なにそれ！なんか恥ずかしい』

一通り茶番を行い嶺亜はスッキリした顔で私の家を出た
嶺亜が玄関のドアから出て行く時…なんだか魔法が解けたような…そんな気がした

『行っちゃいましたね…』

『…なんか踏ん切りがついた気がする』

『嶺亜君への…気持ちですか？』

『うん』

『逆にまだ引きずってたことに軽く驚いてるんですけど』

『瀬を早み…』

『え？なんですか？』

『知らない？百人一首。瀬を早み岩にせかるる瀧川のわれても末に逢むとぞ思ふ』

『…いや、知ってますけど…先輩、もしかして……』

『そうだ、映画見に行かない？』

『映画ですか？』

『あれまだやってるかなぁ…余命何日かの花嫁』

『いやいや、見たじゃないですか』

『いいじゃん、私あんまり理解できなかったし、ねえ今からいこうよ！』

『はいはい、わかりましたって』

二人で黙々とゴミを片付けて外に出る
また平和な日々が始まる…