月とオレンジ 13

514 記憶喪失 ページ23

思わせ振りなこと




「思わせ振りって…

太輔と付き合ってるのは…。」





…私




そう言おうとする言葉を遮られた








咲良「お腹に赤ちゃんがいるの。






…太輔の子」




え…








「そんなわけ…っていうか

だって咲良さんは結婚してますよね？」







渉さん

太輔の親友と








咲良「うん…でも、別れたの。





太輔のことが好きだから…」






…別れた






「待ってください。

でも、太輔だって咲良さんとは別れたって。」








咲良「そんなこと言ってたの？」






驚いたように








咲良「やっぱり不倫から始まったなんて

言いずらいよね。






本当は太輔の方が前から付き合ってたのに。」








「前から？

どういうこと？」








咲良「別れてないよ。私たち。

ずっと続いてた。





結婚してる間から今までずっと」







ずっと…？






状況が飲み込めない






じゃあ、私とのことは…





「嘘…そんなはずない。」






だって太輔は言ってくれた

愛してるって







いつもそばで…








信じたい気持ちと

信じられない気持ちがせめぎ合う







「私、太輔に聞いて…」






話がしたい





そう言われながら私はずっと避けていた








本当のことを知るのが怖かったから






でも、今咲良さんの口から信じられない話を

聞いて、真実を知ろうとしなかったことを

すごく後悔している…









咲良「待って。それはダメ。





太輔の脳は今、すごく繊細で…




失っている記憶を

無理やり引き出そうとするのは

返って逆効果だって…






うまく記憶を形成できなくなるかも

しれないって…先生が」








記憶を形成できなくなる？







それって…つまり私のことをもう二度と…

思い出せなくなるってこと？







「…太輔の記憶はどれだけ残ってるんですか？」







咲良「事故前後のことは記憶が

抜け落ちちゃってるんだけど

自分が誰かも会社のことも

家族のことも覚えてた






まだ他は分からないけど

覚えてなかったのは、あなたのことが初めて」








私…だけ






なんで…どうして









咲良さんが言ってることは本当なの？






それとも…







あまりに衝撃的な真実に信じられない

思いが募る







太「…咲良？大丈夫？」






松葉杖の太輔が後ろからゆっくり近づいてきた






顔を上げると少し気まずそうに目を反らす





…。

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