月とオレンジ 2

83 好きな人 ページ35

藤「ごめんね//

いきなり重たい話//






なんか飲み過ぎたかも(笑)」







って言う先輩の頭に

気づいたら手を伸ばしていた







少し茶色がかった髪にそっとふれて

先輩がさっきしてくれたみたく

優しく頭を撫でた







藤「……///」








少し驚いた顔をして

でも照れたようにはにかむ








「あ、すみません//

私……つい//




さっき先輩がしてくれて

すごく嬉しかったから//」







って、我に返って言うけど






すごく嬉しいとかって言うのもなんか//







あーまたやってしまったー//







さっきのみっくんの話といい

頭なでなでといい






藤ヶ谷先輩は先輩なのに







とんだご無礼ばかり//







あーって落ち込む私に








藤「なんか癒されるね」








って、優しく微笑んで

また黙って窓の外を眺めている








……。




……。








初めて聞いた藤ヶ谷先輩の気持ち







こんなにも胸が締め付けられるのは

その相手が幼馴染みで

自分の境遇と被るからなのか







いつも穏やかな先輩の隠された秘密を

知ってしまったからなのか







『桜好きなんですか？』








『一人で見る桜はあんまりなんだよね。




こんなに綺麗なのに……なんか寂しくなる。

見てるだけで苦しくて……泣きたくなる』







桜……




……咲良









桜を見て泣きたくなるは……きっと

春が先輩を傷つけた季節だから







桜の季節に父を失った私にとっても

桜は見るたびに父を思い出す辛い花だった







でも、それが辛い思い出のままに

ならなかったのは……やっぱり







みっくんが傍に居てくれたから








父を失った悲しみに打ち砕かれそうになった

あの場所で、私はみっくんに恋をした








その恋は絶対に実ることはないんだけど

何度も何度も……私を救ってくれた







藤ヶ谷先輩にとって

咲良さんはみっくんのような存在なんだろうか








だとしたら、先輩が彼女を好きでいることにも

ちゃんと意味はある









でも……先輩を苦しめるのは他の誰でもなく

先輩が想いを寄せる咲良さんで






私を苦しめるのもまた……私を救うみっくんだ








だとしたら

本当に私たちは救われているんだろうか








本当に私たちは……このままでいいのだろうか

84 始発まで→←82 好きな人

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す