STORY42 知らされなかったこと ページ45
結局2人の腕から解放されたのは、ウメさんが報告に戻ってきてからだった。
疲れたと思いつつ、嫌な気は全くしなかった。
父上は数刻後に会ってくれるらしい。
今のうちに用件をまとめる。
(あー…緊張する。)
でも、ネックレスが勇気づけてくれた。
鏡越しに眺めれば、力強く光り輝くソレが見えた。
それが総悟君みたいだと思ってしまうあたり重症だ。
「A、入るぞ?」
静かな部屋にノックが響いた。
兄上にどうぞと促す。
さっきまで一緒にいたのに今度は何だろう?
要件は、入ってきた兄上を見ればすぐにわかった。
「会いたかったろうなーと思って連れてきた。」
「ありがとう兄上!」
兄上は私の愛刀を持ってきてくれたのだった。
本当は剣を持ち歩いて良い身分ではあるけど、廃刀令のご時世に刀なんて持っていたら役人に身分確認されるだろう。
成田家の一人娘としていたわけでもないし、万が一家に連絡が入っても困るのだ。
家出の身としては避けたかったので、私の大事な分身は兄上に預けることにしたのだった。
「ごめんねぇ置いていって。」
久しぶりの再会に刀にすりすりしていると、兄上がふっと笑った。
「お前は本当に変わんねーな。」
「兄上は少し老けたね。」
「なんだと。…俺がここにきた理由は刀だけじゃねーぞ。話があってな。」
話って何だろう。
大事な話なんだろうか。
「1年前、現当主は俺になった。」
「はい!? 父上は!?」
「親父、2年前に少し患ってさ。もう完治してるし問題はないんだけど、流石に当主は交代。今は元気にしてるんだがな。」
今は完治していると言う言葉に安心した。
患ったことなんて知らなかった。
…たった1人の娘なのに、情けない。
父上はまだずっと元気なのだと。
どこかで思っていた。
「そんな顔すんなって。急に死にゃしねーから。これからのことを考えて交代しただけだよ。」
兄上はぐしゃりと私の頭を撫でた。
懐かしい気分になる。
私はこの温かい手が好きだ。
「じゃあ今父上は何を…?」
「何も。きっと暇してるだろうよ。急に何の仕事もなくなったんだから。…本当は知らせようと思ったんだ。でも親父が命に関わるわけじゃないし知らせる必要はないって。多分今楽しそうにしてるAに気を使ったんだよ。」
…多分違う。
家を出た私に言う義理はないってだけだ。
ウメさんや兄上、弟には伝えた家出。
父上には、最後まで黙ってた。
だから、私も知らされなかったんだ。
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たいる(プロフ) - わかさん» こっちにもコメントくださってたんですね!笑ありがとうございます。笑っていただけて良かったです笑笑 (2021年7月11日 17時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
わか - ミョウバンは笑った!!笑笑 (2021年7月7日 21時) (レス) id: 44294a6bf9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たいる | 作成日時:2021年1月8日 0時