Q33:本 ページ34
どれくらいそうしていたのか、ふと時計を見る。
(驚いた。1時間半も人様の本を読んでいたのか)
俺は周囲を見渡す。
すると、先輩が入ってきた。
「……あ、良かった。本は読み終わった?」
「先輩……いえ。区切りがついただけです。この本は先輩のですか?」
「この家の大多数は祖母のだよ。表紙に年季があるのがそう。私のはここにはもったいないほど、使い込めてないの」
「そうですか?俺は先輩の趣味が気になります」
俺はそう言って、これまた近くにあった本を取る。
これはさきほどまで読んでいた本とは違い、表紙はしっかりとしている。
だが、愛着があるようで、それも大切にされているようだ。
「……"希望の花"?」
俺が呟くと先輩は、バッと振り返り、手を伸ばす。
俺は反射的にその本を上にあげてしまった。
「あっ!?」
「先輩、もしかして……」
俺の言葉に、先輩は姿勢を正して座り込む。
「……その本は、私のだよ……この場には不釣り合いでしょ?」
先輩の言葉に俺は改めて、顔を本へと向ける。
なるほど、さきほど読んだ本とは真逆そうだ。
「ふっ」
「!!やっ、やっぱり返して!部屋に戻してくる!」
俺が笑ったことがショックだったのか、先輩は泣きそうな顔で手を伸ばしてくる。
だが、その後の言葉が残念に思えて、俺は本を自分の背と本棚の間に隠した。
「あ、赤司くん?」
「この本、借りても良いですか?」
「えっ……?」
「先輩がどんな本に興味があり、心動かされるのか、それを知りたいです」
俺がそう言うと、先輩は手を下ろし、顔を反らす。
しばらく沈黙が部屋を包むが、口を開いたのは先輩だった。
「……わかった。でも、つまらないと思ったら、いつでも返して?」
「わかりました」
俺は頷くと、本を見つめた。
本は人の好みだが、先輩がどんな本を好きなのかには、興味がある。
何より、それで話題ができるなら、願ったり叶ったりだ。
(早速、家でやる勉強の合間にでも、読ませてもらおう)
「あ、赤司くん。勉強はどうする?」
「その前に、先輩は何時に夕飯を食べますか?」
「私?私は……7時半から8時……」
俺は先輩の言葉に、再び時計を見る。
時計は既に、先輩が食事をする時刻を指している。
それを見て、血の気が引けてた。
「気にしないで。赤司くん、集中してたから……邪魔しないように、声をかけなかったの」
「迷惑では?」
「そんなことない。祖母の本……私しか読まないから……嬉しかった」
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作者名:アマユリ | 作成日時:2021年11月20日 16時