幸せは長続きしないもの ページ47
Aside。
.
格好良かった。
可愛かった。
面白かった。
感動した。
頭の中を巡るのは
色んな顔を見せる横山さんと
暗闇の中でキラキラ光るペンライトの波。
ライブの余韻で幸せな気持ちのまま歩く
駅までの道。
足取りは驚くほど軽い。
腕時計に目をやると
ちょっと急げば準急に乗れそう。
大通りをやめて細い裏道を進む。
駅までの近道。
これが、大きな間違い。
.
「はっ、はあっ…」
私の地面を蹴る音に合わせて後ろから聞こえる足音。
感じる気配。
チラリと後ろを見た時に見えたのは
全身真っ黒でフードを深く被り
マスクをして顔を隠した長身の男の姿。
逃げなきゃ。
本能的にそう感じて走る。
でも学生時代から体力がないことが欠点で、
駅に近付けば近付く程、
男から離れれば離れる程
ゼエゼエとあがる息。
足がもつれる。
ドテッと前にコケて
男との距離はグンと縮まる。
お、起きなきゃ
慌てて立とうとした。
でも、立てなかった。
「ひ…」
男に足首を掴まれたから。
男「捕まえた」
マスクの中から聞こえるくぐもった声。
必死に足をバタつかせて逃れようとしても
逆にギリギリと力が込められるだけ。
「痛っ、たい…」
顔をしかめればハアハアと荒くなる男の息遣い。
足首から手は離れているのに
恐怖で腰が抜けて逃げられない。
段々近付く顔。
「やっ…やだ…」
男「怯える顔が好きなんだよ…」
ゾワッと鳥肌がたつ。
マスクをおろした男は
舌なめずりをしたかと思えば
私の涙を舐めて、
いやらしい手つきで頬を撫でる。
その手は段々降りていく。
「ひいっ…いやぁ…」
カチカチと鳴る歯。
ガクガク震える体。
首筋を舌が這う。
気持ち悪い。
吐き気がする。
手が押さえられて身動きが取れない。
トップスに手がかけられ
ピ、と裂けそうな音がした。
気持ち悪くて、怖くて、
どうしようも出来なくて
ギュウっと目を瞑った。
喉が乾いて、掠れて、
蚊の鳴くような声しか出ない。
助けもろくに呼べない。
逃げることも出来ない。
嫌だ。
助けて。
届くはずないと分かっていながらも
精一杯の助けを呼ぶ。
ふ、と男の力が緩んだかと思えば
覆いかぶさっていた男が視界から消える。
え？
起き上がってみれば
私を守るみたいに立つ、肩で息をする人。
横「なにしてんねん！アホ！」
涙が溢れて止まらない
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作者名：和海
| 作成日時：2017年6月16日 17時
