男装生活とその日常について３ (ページ16)

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「行けないですよ」

『……あら、どうして？』

「スングァニと一緒にお母さんの所に行けば、幸せを分けて貰えるって解ってますよ。でもそういう暖かさを味わっちゃったら、もうこっちに戻ってこれなくなっちゃうでしょ？」

「ヒョン、」

「お母さんとかスングァニみたいな、人の優しさに触れるのは幸せなことだけど、一人になったときにきっと耐えられなくなるから」

画面を通して僕の母親に話しかけるヒョンの表情を見ると、途端に呼吸がうまくできなくなってしまう。

ヒョンはいつだって平気な顔をしている。僕達を見送る時なんて、むしろ飄々としていたくらいだ。

誰にだってあるような批判には目もくれず、練習を重ね、着々と仕事を広げ、作業をこなしていく。

それを少し怖いと思ったのはいつだったか。

完璧に見えるAヒョンの背中に、微かな陰りが見え隠れする時があるのだ。

きっとまだ、ヒョンは救われないままなんだろうな。

一人になったあの瞬間から、ずっと自分の事を一人ぼっちだと思い込んでいる。

『ばかね、一人にならなきゃ良い話じゃないの。うちのもいるし、あと何人いると思ってるの？一人になる暇なんてないじゃない！』

「あはは、そうだった」

『Aが幸せになれる事をたくさんしなさい。いつでもうちは開けておくから』

「うん」

『とりあえずご飯いっぱい食べて！』

「お母さんのご飯美味しくて、食べるのがもったいないなぁ……」

『あんたそんなだから肉が付かないのよ！』

「見えないだけであるんだけど……」

『見えなかったら意味がないじゃないの』

「そっか」

母親特有のパワーに押しまかされたAヒョンがケラケラと笑う。

ああ、帰ってきて正解だった。

やっぱりこの宿舎に、静かな空気は似合わない。

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