男装生活とその日常について３ (ページ11)

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一番早い便で島を飛び出してきたおかげで、戻ってきた大都会もほんの少し朝の気配を残していた。

タクシーの運転手にお金を渡して車から降り、足早にエスカレーターへ乗り込む。

Aヒョンがいる方の宿舎のインターホンを連打する。

どうせあの人はカトクなんて見ないだろうし送っても無駄だ。

でも一応、仕事用のメールアドレスに連絡を入れとこうかな？
もしかしたらこっちじゃなくて作業室にいるかもしれないし……

インターホンの連打を続けながら片手でスマホのメールフォームを呼び出していると、ガチャリと扉が開く。

「ただいま！」と元気に挨拶しようとしたのに、その言葉はピタリと止まってしまった。

目を丸くしたAヒョンが「スングァニ？」と僕の名前を呼ぶ。

その声から察するに、歓迎ムードはゼロだと思ってよさそうだ。

「なんでいるの？」

「おかえりって言ってくれないんですか、Aヒョン」

「お前が戻ってくるのは明日の昼だろ、あと一日あるよ？」

「そうですけど」

「なんで戻ってきたの？家族で過ごす時間は大事にしてほしいって言ったの忘れた？」

なかなか棘のある言い方をするヒョンは珍しい。

信じられないと言いたげに顔をしかめるAヒョンに、少しだけ反抗心が湧き始める。

せっかく帰って来たんだから暖かく迎えてくれたらいいのに、と頬を膨らませそうになるけど頑張って気持ちを静めた。

ヒョンがこう言うのは、僕を思っての事なのだと十分に理解しているつもりだ。

「忘れてないですよ」

「年に一回あるかどうかなんだよ？家族は一秒でも長く居てほしいと思ってるだろうに」

「でしょうね」

「そんな他人事みたいに言って」

「でも、Aヒョンだって僕の家族なんですから」

「……、」

「秋夕は家族で過ごすものだって言ったのはAヒョンじゃないですか。それなら半分はヒョンといなきゃ不公平だと思いませんか？」

無理やり捏ねた理屈を披露すれば、Aヒョンが珍しく怒ったような顔をした。

眉間に皺を寄せ、下唇を噛み、目線を僕の首元に向ける。

いや、そもそも怒っているところを見たことがないから、これが本当に怒っている顔なのかも解らない。

でもなんとなく雰囲気が……本当に……本当に怒らせてしまったのだろうか……

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